research study
交通まちづくりの合意形成を円滑化するためのツールに関する研究
背景と目的
交通まちづくりを進める上で、合意形成の重要さ、およびそれゆえの困難さが指摘されて久しい。合意形成を円滑に進めるためには、的確な場面で的確なソフト・ハードのツールを活用することが有効と考えられる。ツールとは、例えば、①町並みまちづくりと連動した社会実験、②従来の議論をブレークスルーできる新規デバイス、③ワークショップ等での議論を円滑化するシミュレーション、④新たな対策によって「不利益」を被る人に別の形で「補償する」ためのツール、などが考えられる。
本研究は、こうしたツールの可能性や課題について実践的検討や議論を行い、有効性を検討するものである。その上で、ツールの存在を前提とする合意形成プロセス論を構築することが目的である。
期待される成果
(1) 合意形成円滑化ツールの類型化
交通まちづくりの合意形成を円滑に進めるためには、ハード・ソフトのどのようなツールが有効ないし必要なのか、について、交通まちづくりのタイプごとに整理する。
(2)町並みまちづくりと連動した社会実験手法の開発
1)町なみにふさわしい交通デバイス・実験デバイスの開発・適用-台東区谷中地区
2003年度より、まちづくり協議会やまちづくり支援NPO、行政等、多様な主体の協力体制により、取り組みが熟しつつある谷中地区を対象に、他地区事例の比較とあわせ、地域の特性を活かして交通規制、デバイス設置等の実験を行い、住民参加型の環境改善手法を検討する。
2)一般車両の扱いを巡る意見の調整を図るための社会実験のあり方-日光
寺社エリアへの一般車両の通行を認めることの是非についての議論を進めるために、2004年度に社会実験を実施した日光地区について、実験を実施したことが議論にどのような影響を与えるのかについての事後検証を行う。
(3)ブレークスルー型交通デバイスに関する検討―ライジングボラードについての基礎的検討
欧州を中心に急増しているライジングボラード(通行の権利を有する車両のみが、ICカードなどによりボラードを自動昇降させる仕組み)は、「通過交通は排除したいが、地区住民が不便になりすぎるのは困る」、等の議論を一気に解決できる可能性を有する。その一方で、住民エゴに陥らないための理論整理が必要である。本研究では、欧州の既設置地区での議論等を参考に、基礎的論点を整理する。
(4)面的な交通安全対策の合意形成段階に必要なツールの開発―台東区谷中
※(2)でも述べたように、2003年度から地区交通改善案をワークショップ形式で作成してきた谷中地区が、コミュニティ内での意見集約から行政計画へと対策案を発展させる段階を迎えている。本研究の中でその動きをリアルタイムでフォローするとともに、次の点の研究を行う。
1)GISを活用した意識調査結果表示システムの開発
対策案に対する意向の分析は合意形成上欠かせない作業であるが、特に、対策実施個所との地理的関係が重要な要素となる。本研究では、GISと意識調査結果データベースを連動させ、意見分布を可視化し、個別の対策案に対する賛否の分布をある程度推測できるシステムを開発する。データとしては、2004年度に実施した「谷中地区全住民意識調査」を用いる。
2)ワークショップ対応型シミュレータの完成度向上
住民参加型として開発済みの交通シミュレーションについて、汎用性の向上、データ入力の簡易化などの完成度向上を行う。
(5)合意形成のための「補償」に関する研究-コミュニティバスを巡って
コミュニティ・バスの新設および見直しの際に、路線を外れた(外れる)住民の合意を得ることが困難になる場合が少なくない。その際、別の形のモビリティを提供(補償)することによって合意形成を図る可能性について、コミュニティバス見直しの実例を基に検証を行う。
(6)交通まちづくりにおける合意形成論の構築
以上の検討に基づき、合意形成のためのツール論を確立する。