research study
≪国際発表≫1704Cカンボジアにおけるクロスセクター連携を通した交通安全教育の実施
背景と目的
今日、世界中の多くの開発途上国(以下、途上国)が、急速な経済成長を実現しつつある。それに伴い、交通をめぐる環境も急激に変化している。多くの途上国では、とくに二輪・四輪の使用者数が劇的に増えているにもかかわらず、十分な交通安全教育や運転指導を受ける機会は極端に少ない。そのため、道路利用者の規範意識の低さや運転技能の未熟さが、急増する事故や渋滞の大きな原因となっている。とりわけ若年層(10代後半~20代前半)の間で交通事故が増加している状況は看過できない。
こうした状況が典型的にみられる国のひとつが、東南アジアのカンボジアである。そこで、平成27年度から3年間にわたり、カンボジアの首都プノンペンにおいてIATSSの調査研究プロジェクトを実施してきた。同プロジェクトでは、(1)カンボジアの交通状況の検証、(2)若年層(高校生・大学生)の交通意識調査、(3)若年層(高校生・大学生)による二輪車の運転行動の検証、(4)これらの研究成果にもとづく若年層に対する交通安全教育のパイロット版の実施、(5)交通安全教育の担い手となる交通警察官に対する二輪車の運転技術指導、を行った。
なお、これらの研究成果は、IATSS Research (Vol。41、 Issue 1)[平成30年7月刊行予定]において「カンボジアにおける若者の交通安全向上」という特集号を組んで発信する予定である。
過去3年間にわたって実施した研究ならびに交通安全教育のパイロット版は、カンボジアではこれまで基本的に実施されたことのないものばかりであり、同国の交通分野の関係者(公共事業・交通省、教育・青年・スポーツ省、プノンペン市警察、日本の国際協力機構(JICA)カンボジア事務所、交通コンサルタント、等)から高い注目を集め、マスメディア(新聞、テレビのニュース番組)でも適宜取り上げられてきた。
こうした背景を踏まえ、平成30年度の社会貢献プロジェクトとして提案する本プロジェクトでは、(1)交通安全教育プログラムの開発・実施、ならびに(2)交通安全教育の専門家養成、を行うことを目指している。とくに、これまで本研究では若年層を対象としてきたが、そこで得られた知見の多くは必ずしも若年層のみに限定すべきものではなく、さまざまな年代の道路利用者(とくに二輪ドライバー)に適用可能であると考えている。そのため、交通安全教育プログラムの開発・実施にあたっては、一般の人々にも適用できるプログラムを開発し、実際に一般の二輪ドライバーも対象として実施する予定である。
期待される成果
(1) 交通安全教育プログラムの開発・実施
カンボジアの道路事情や交通状況に適合した交通安全教育プログラムを開発することで、それらが学校やコミュニティで実践されることが期待される。とくに、カンボジアの教育・青年・スポーツ省(以下、教育省)と連携して、学校(とくに高校)での交通安全教育で活用されることが期待されている。
このプログラムの開発にあたっては、3年間にわたって行ってきた交通安全意識ならびに運転技能に関する研究成果と共に、国際協力機構(JICA)と連携して行ってきた交通インフラに関する研究(具体的にはプノンペン市内の交差点改善事業のインパクト調査)の成果を活用する予定である。
高校に進学すると二輪車や自転車による行動範囲が広まるため、生徒たちへの交通安全教育の重要性が教育省でも認識されており、高校のカリキュラムには交通安全教育の項目が記載されている。しかしながら、この分野の専門家がカンボジア国内には極めて少ないこともあり、これまで高校生向けの交通安全教育はほとんど実施されてこなかったのが実状であるため、今回の提案にもとづく取り組みが実現することを教育省の関係者も切望している。なお、この交通安全教育ワークショップは、プノンペン市内のシソワット高校での実施を予定している。
さらに、カンボジアの公共事業・交通省ならびにプノンペン市警察と連携して、若者向けに開発した交通安全教育プログラムを一般ドライバー向けに修正し、コミュニにおける交通安全教育プログラムを開発し、実施することを計画している。先述のように、多くの人にとっての日常の足は二輪車であり、一般の二輪ドライバー向けの交通安全教育の必要性が非常に高いことは、公共事業・交通省もプノンペン市警察も認識しているところである。しかしながら、これまでそうした取り組みはほとんど行われてこなかったため、一般ドライバー向けの交通安全教育ワークショップの実施に対する現地関係者の期待は非常に高いものがある。
(2) 交通安全教育の現地化
(1)の交通安全教育プログラムを開発し、実施する過程で、現地の教員や警察官、自動車教習所の教官たちと協働することを予定している。その過程を通してカンボジア人の専門家たちを養成することによって、現地の人たちが交通安全教育(二輪の運転技術指導、座学による交通安全指導)を自ら実施できるようになり、持続可能な交通安全教育プログラムの実施へと繋がることが期待される。そのために、交通安全教育の専門家養成プログラムを開発する。
こうした交通安全教育の専門家として、具体的にはNCX Honda Safety Riding Centerの所属インストラクターたち、ならびにプノンペン市警察の交通警察官たちを想定しており、これらの専門家たちがより熟達したドライビング技術を身につけるとともに、交通安全教育で必要とされる知識・技能を習得することによって、質の高い交通安全教育を現地の人々によって実施できるようになることが期待される。
本プロジェクトでは、クロスセクター連携を通した交通安全教育の開発・実施ならびに専門家養成を目指している。そのため、高校、教育省、公共事業・交通省、プノンペン市警察、JICAといった公的機関に加えて、IATSSフォーラム同窓会ならびにNCX Honda Safety Riding Centerとも連携することによって、それぞれの特長を活かした成果をあげることが期待されている。