research study
カンボジア王国プノンペン市における交通安全向上に関する実証的研究 -若年層を中心としたソフト面への視点-
背景と目的
21 世紀の成長のセンターとして海外直接投資や人の移動が加速化している東南アジアのなかで、目覚しい社会経済開発を実現している国がカンボジアである。しかし、成長の陰には多くの問題が山積している。成長段階にある多くの途上国と同様に、カンボジアでも急速なモータリゼーションが進展している。とくに首都プノンペン市ではインフラ整備や人々の意識改善が追いつかず、交通渋滞や事故が深刻化している。
とくに本研究では、現在も通学等で道路をアクティブに使用しており、将来も重要な道路ユーザーとなっていく若年層(=高校生・大学生)に焦点をあてる。若年層の交通意識・運転行動を理解し、それらが安全を志向する方へ働きかけることが、将来的な交通安全の実現において非常に重要であると考える。
そこで、本研究では、同市の交通環境ならびに若年層の交通意識・運転行動を明らかにしたうえで、とくにソフト面から交通安全を向上させるための方策(=啓蒙活動・教育カリキュラム)に関する研究・開発・実践・提言を行うことを目指している。
期待される成果
本研究では、交通安全に関するソフト面の多様な側面において、次の5つの成果をあげることが期待される。
(1) 若年層の交通意識の解明:高校生・大学生を対象として平成27 年度に実施した交通安全意識に関する質問紙調査のデータ分析を進め、若年層における交通規則への理解や交通安全意識の状況を明らかにする。また、平成28 年度には質問紙調査の回答者の中から属性に応じて20~30 名程度を抽出し、インタビュー調査を行うことで、交通安全意識をより詳細に分析する。インタビュー調査では、とくに社会的モラルの形成がどのように交通意識に影響を及ぼしているのかを探究する。
(2) 若年層の運転行動の解明:(1)と同じく平成27 年度に実施した高校生・大学生による二輪車の運転行動調査のデータ分析を進めることで、若年層が実際に道路上でどのような行動をとっているのかを明らかにする。この調査では、二輪車の車体ならびにドライバーのヘルメットに小型カメラを設置し、実際の運転行動や道路上の状況を記録した。このデータ分析では、質問紙調査で明らかになったドライバーの交通安全意識(=社会モラルの多寡など)が運転行動にどのような影響を与えているのかといったソフト面を解明する。
(1)と(2)の調査によって、現在も通学等で道路をアクティブに使用しており、将来も重要な道路ユーザーとなっていく若年層の交通意識ならびに運転行動を解明することができる。これらの調査結果にもとづき、現在の道路上で起こっている問題を明らかにし、今後の対策のあり方について検討することが可能になる。(3) コミュニティ・レベルの啓蒙活動:上記の(1)・(2)で得た知見を実際の生活の中で活かしてもらうために、若年層や成人を対象とした交通安全に関するワークショップをコミュニティ・レベルで実施する。また、複数のコミュニティを包含した行政単位(コミューンと呼ばれる)において、交通関係の専門家を対象としたワークショップを実施し、交通行政に関する問題点などを共有し、解決の方策について議論する。これらのワークショップを通して、人々の交通や安全に関する意識が向上することが期待される。ワークショップの実施にあたっては、IATSS フォーラム同窓会と連携して行う。また、専門家ワークショップには、以前にIATSS の研究プロジェクトで共同研究を行ったインド工科大学の専門家を招聘し、同プロジェクトで行政とも協力して作成したインド・アグラ市の「道路ガイドライン」の策定過程や成果などにもとづく知見を提供してもらう。
(4) 高校における交通安全教育カリキュラム化への支援:上記の調査結果ならびにワークショップの成果を分析し、現在、教育省と運輸省で導入を検討している高校生を対象とした交通安全教育カリキュラムに対して提言を行っていく。(具体的なカリキュラム開発支援は平成29 年度に実施予定。)
(5) 交通インフラ改善への貢献:過去10 年以上にわたりプノンペン市へ交通分野の支援を行っている国際協力機構(JICA)と共に、市内の交差点整備に関する調査を行う。とくに、事故や渋滞の多発地点を対象に、平成28 年度にJICA が実施する信号機整備事業の道路状況データを分析することで、とくにソフト面からどのような提言をすることができるか検討する。なお、この交差点整備に関する提言をまとめる際にも、(1)・(2)の調査結果を十分に活用する。(とくに平成27 年度に行った(2)の運転行動に関する調査において、市内でも渋滞や事故などの問題がより深刻な交差点を通行する際のデータを収集済みであり、それに関する分析結果を提言に活かしていく予定である。)
(3)~(5)は、(1)・(2)の研究成果を踏まえて社会実装していくものであり、これらの調査研究と社会活動とは相互に密接な連関をもっている。