研究調査

research study

Share
facebookxhatenapocket

カンボジアにおける安全な交通社会実現へ向けたクロスセクター連携モデルの構築 ~「規範意識」の形成と適切な「運転行動」の促進~

プロジェクトリーダー:北村 友人
年度:2017年, プロジェクトナンバー:1704

背景と目的

多くの開発途上国と同様、近年のカンボジアでは急速な経済成長に伴い、交通をめぐる環境も急激に変化している。とくに二輪・四輪の使用者数がこの10年間で劇的に増えているにもかかわらず、十分な交通安全教育や運転指導を受ける機会が極端に少ないため、道路利用者の規範意識の低さや運転技能の未熟さが、急増する事故や渋滞の大きな原因として指摘されている。とりわけ若年層における意識の低さや技術の未熟さは、深刻な問題である。
こうした状況を踏まえ、本研究ではこれまで若年層(高校生・大学生)を中心に、交通に関する規範意識の現状や、彼ら・彼女らの運転行動の特性について明らかにしてきた。平成29年度が3年目となる本研究では、これまでの研究成果を活用しつつ、次の3つの活動を実施する予定である。すなわち、(1)若年層の規範意識や運転技術を高めるための教育プログラムの研究、(2)若年層を対象とした、二輪車の運転技能訓練の実施、(3)日本の国際協力機構(JICA)等の支援によって進められている交通インフラ整備のインパクト調査、である。なお、(1)と(2)を実施するうえで、本研究プロジェクトの1年目と2年目に実施した高校生・大学生を対象とした質問紙調査ならびに二輪の運転行動調査のデータをさらに分析することが欠かせないため、3年目の平成29年度にはそれらの分析作業も行う。
ここで挙げた3つの活動ならびに過去2年間の研究成果を踏まえ、平成29年度の最後には「規範意識」と「運転技能」を軸とした交通安全政策の指針をカンボジアの公共事業・交通省ならびに教育・青年・スポーツ省に対して提示することを、本研究の最終的な成果として目指している。
本研究の実施にあたっては、カンボジアの公共事業・交通省ならびに教育・青年・スポーツ省、および日本の援助機関である国際協力機構(JICA)と連携を進めている。そうした連携体制にもとづき、「規範意識」の形成と適切な「運転行動」の促進を相互に結び付けうる「クロスセクター連携モデル」の枠組みを構築することが、本研究の最も重要な目的である。そのうえで、平成30年度以降に、本研究の成果を活かしながら交通安全教育プログラムならびに運転技能訓練プログラムの開発に着手することを視野に入れている。(たとえば、社会貢献プロジェクトへの申請を行うことで、それらのプログラムを完成することを目指したい。)

期待される成果

本研究では、上述の3つの活動を実施する予定であり、それぞれに期待される成果は下記の通りである。
(1)教育プログラムの研究
カンボジアの教育・青年・スポーツ省は、2000年代後半に高校のカリキュラムに交通安全教育を導入する政策を定めているが、実際のカリキュラム開発は滞ってしまっている(この点については、平成28年度に同省カリキュラム課の課長ならびにスタッフに対する聞き取り調査を実施して確認した)。そこで、本研究では高校のカリキュラム開発をするうえで必要となる要素を明らかにするため、交通安全教育プログラムのあり方を研究する。これは、社会的意義の極めて高い活動となることが見込まれる。
(2)運転技能訓練の実施
近年のカンボジアでは、とくに二輪車による事故が深刻化しており、その原因として上述のように規範意識の欠如や運転技術の未熟さが指摘されている。そこで、本研究ではこれまでの研究成果を踏まえ、二輪車を対象とした運転技能訓練を実施することで、どのような技能訓練が必要とされているのかを明らかにする。この技能訓練の成果にもとづき、次年度以降に運転技能訓練プログラムを開発し、そのプログラムを活用しながら公共事業・交通省あるいは民間業者が今後適切な運転教習のシステムを構築していくことが期待される。
(3)交通インフラ整備のインパクト調査
プノンペン市では、平成28年より国際協力機構(JICA)の支援によって、信号機の整備ならびに交通管制センターの開設作業が進められている。本研究では、旧来型の信号機から新式の信号機に替わることによって、道路上での交通行動(車両ならびに人)がどのように変化するかを明らかにするため、平成27年から平成28年にかけて主要交差点での交通行動の記録をとっておいた。平成29年には、信号機が入れ替わった後の交差点での交通行動を記録し、新式信号機が人々の交通行動にどのようなインパクトを与えたのかを検証する。この調査結果は、いかなる交通インフラ整備が必要であるかを明らかにするうえで重要な示唆をもたらすと考えており、社会的な意義という観点からの成果を期待することができる。
なお、これら3つの成果に加えて、3年間にわたる研究プロジェクト全体の成果としては、「規範意識」と「運転技能」を軸とした交通安全政策の指針をまとめることによって、より安全な交通社会をカンボジア政府が実現していくうえで、本研究も重要な貢献をすることが期待される。
さらに、本研究の最大の特徴は、カンボジアの公共事業・交通省ならびに教育・青年・スポーツ省およびJICAにまたがるクロスセクター連携であり、こうした連携のあり方をカンボジア起点のアジア・モデルとして他のアジア諸国にも広げていくことが、本研究に対して期待される成果である。

成果物

同テーマの研究調査

一覧へ戻る