research study
『交通安全教育の手法と評価法の研究』 効果測定するための「ものさし」づくりの探求とプログラム開発への展開
背景と目的
ここ数年、高齢ドライバーへの安全教育や学校現場の危険予測教育など、安全教育の手法開発に進展が見られるようになってきた。その結果、教育法の理論構築とプログラム開発のノウハウが蓄積され、現場での実績が上がりつつある。しかし一方で、教育手法の効果性を検証する評価法については、十分な検討が行われていないのが現状である。本研究では、教育効果を検証する感度の高い「ものさし」を種々に準備し、既存および新規の教育プログラムの効果性を評価することを目的とする。教育手法の開発と評価法の開発は両輪の関係にある。効果測定の結果を既存のプログラムの改良に、あるいは新たなプログラム開発に活用することで、より洗練された教育内容を構成することができる。それゆえ「ものさし」が果たす役割は大きく、今後その重要度は増すと考えられる。
期待される成果
平成17年度の研究「H743B:安全教育の効果を測定するための『ものさし』づくり」では、高齢ドライバー教育を実施し、「ものさし」のあて方を検討したとともに、フィードバック方法と効果との対応関係を分析した。主な研究成果は以下の通りである。
・学習レベル(自己評価スキル)と行動レベル(車線変更、一時停止行動、見通しの悪い交差点の通過方法)にものさしをあて、効果の持続性と波及性の検討を行った。
・自己評価スキルと運転行動に改善が見られ、持続的な教育効果が認められた。しかし、安全運転態度の変容までには至らず、効果の波及範囲は限定的であった。
・走行テスト結果に関するフィードバック方法の違い(自己の運転行動の映像を用いるかどうか)は、教育効果に影響を及ぼさなかった。
これらの知見が得られたことで、さらなる課題も見つかった。そこで平成18年度は以下の点に着目して研究計画を立案する。
①高齢ドライバー教育の実験的調査
・平成17年度の研究を引き続き発展させる。その際、補償行動への波及度や、運転行動の指標を追加・選別するなど、より感度の高い効果測定の「ものさし」を開発し、その技法を探求する予定である。
・フィードバック方法と教育効果との対応関係を検討し、効果測定の結果をプログラムの改良に応用する。とくに指導員と受講者との間で行われるコミュニケーション行動に着目し、自己理解を促すフィードバックのあり方を追求する。
②若年ドライバー教育の実験的調査
・教育対象者を若年者にした場合の教育効果測定を行い「ものさし」づくりを探求する。車間距離行動などリスク・テイキング行動をテーマにした教育プログラムを新たに制作し、効果測定のあり方を検討する。
③学際的研究の推進
・平成17年度は進捗状況が熟しておらず、「H743A:シミュレータを活用した交通安全教育の検討」との連携が実現できなかったのが心残りである。上述の平成17年度の研究成果をふまえるならば、共通項が見いだされる段階に達したと判断する。すなわちシミュレータ教育の効果を測る「ものさし」づくりである。工学的分野と心理学的分野の融合をはかり、学際的研究の実績をつくりたいと考えている。