research study
危険運転致死傷罪の学際的研究
背景と目的
危険運転致死傷罪は、従来、その外延に位置づけられてきた「準」危険運転致死傷罪をも取り込む形で、包括的な犯罪として再整備された。今後は、病気の影響などで運転に支障をおよぼすおそれがありながら運転を中止しなかった場合にも、「準」危険運転致死傷罪が成立し処罰されることになる。被害者保護の観点からは必要な措置であるが、一般市民が、どこまで正当な法整備として受け取るのか、検証が必要である。市民の正義観念に立脚した法の心理学的ないし社会学的分析(効果的な犯罪予防についての経済分析を含む)と、その基礎にある「病気」の医学的分析が、新法の施行により、従来以上に要請されているのである。そこで、本研究では、これらの最新の課題を学際的に検討する。
期待される成果
①上記新法の施行により、「準」危険運転致死傷罪、アルコール濃度の検査阻害罪、無免許運転による刑の加重という、無責任な運転をした者に対する刑事制裁は拡張され、かつ重いものとなった。重い刑罰を科すのであるから、犯罪概念が厳密に再評価される必要がある。即ち、運転に支障をおよぼすおそれのある「病気」の意義を個別具体的に検討すること、犯罪現場から飲酒運転の証拠を隠滅しようとする実態の把握を、法学的、法社会学的、医学的に(逃走して検査を免れることが可能か等を)検討する。加えて、これら諸科学の観点から、関連する外国の状況の比較検討を行う。犯罪概念の拡張と刑罰の引き上げによる犯罪防止効果については、経済学の観点からの分析も有効と思われ、これも実行する。
②トラック運送会社のように、多くの被用者に自動車の運行を行わせている業者にとっては、新法により、その法的ないし社会的責務はが格段に引き上げられた。このことが、業者の労務管理、あるいは顧客サービス(価格転嫁を含む)に、如何なる影響を及ぼすのかを、産業社会学、心理学、経済学の観点から検討する。その方法としては、業者及び(それ以外の)一般市民の法意識調査を、アンケートを通じて行い、当該結果を分析する。業者については、面接調査も行う。上記新法が及ぼす心理的効果については、危険運転致死傷罪ないし「準」危険運転致死傷罪に相当する罪を犯した者に対して、心理学的ケアを重視して再犯予防を図っているドイツ及びアメリカ合衆国の状況を詳細にフォローし、日本の状況への示唆を得ることを試みる。
③ 上記作業(①、②)を通じて得られた知見を、市民フォーラム、関連業界とのディスカッションを通じて確認する。そこでの知見をも踏まえ、新法のよりよい理解・受容に向けた社会的提言を行う。