研究調査

research study

Share
facebookxhatenapocket

自動運転車と共生する社会ーその基盤整備に向けた包括的提言

プロジェクトリーダー:今井 猛嘉
年度:2024年, プロジェクトナンバー:2402C

背景と目的

過去2 年間の研究で、自動運転に関する基本問題(運転者の意味、ディレンマ状況への対処法等)につき、一定の結論を得た。2024 年度は、その考えを、自動運転車の社会実装に係わる者の責任に係る指針として取り纏め、社会に公表する。
具体的には、自動運転車の開発、販売、公道での運行及び利用に係わる者に、不必要な法的責任を課す事態を避けるため、国際的に共有されつつある知見を踏まえ、ガイドラインを整理する。例えば、自動運転車が公道を走行中に歩行者に衝突して死亡させた場合、①誰が責任帰属主体か、②その者との関係で運転者をどう定義するのか、③運転者がなすべきことは、SAE 基準から導けるのか、④導けないとすれば、如何なる視点から、運転者、及び、その過失又は故意を理解するのか、⑤製造物責任法や自賠法は、そうした事故事案に適用できるのか、以上の点を、英国、EU、米国の議論状況を踏まえて取りまとめる。また、⑥ディレンマ問題については、シナリオを用意し、これに対する市民意識調査を行う。その際、全国各地で展開されている実証実験に参加してデータの収集、分析を行う。⑦これら検討の成果として、緊急医療における医療物資や災害時の生活物資のバックヤードでの運送の効率化を挙げるための、レベル4 技術の展開も試みる。⑧以上の研究結果を、英語にて公表する。

期待される成果

先見性:以下の先見性が認められる。
1) 自動運転車に係る事故発生時の、関与者の法的責任の限界を示すガイドラインは、未だ存在しない。法的概念ではなく、特定も倫理的観念の表明にとどまる基準は存在するが、それでは関与者の法的責任、特に刑事責任は何ら解明されず、処罰されるかもしれないとの不安を関係者から払拭することはできない。
これでは自動運転の技術開発者は萎縮したままである。本研究は、自動運転車の開発に係わる技術者、その社会実装に係る経済的効用と損失等をも踏まえ、刑法、民法、消費者法、EU 法に係る専門家とも議論しつつ、実用可能な法的なガイドラインを作成する。この試みは、日本では最初のものとなる。
2) この試みは、英国、EU、米国の動向とも一致するが、これら国際的傾向を視野に入れたガイドラインは、日本には存在しない。本研究は、日本で実際に適用可能な法基準を示し、もって、自動運転車の開発陣等の不安を払拭させることを目指す、日本で最初の試みとなる。
3) ディレンマ問題が現実に生じることは避けられないが、具体的な対処法の検討は進んでいない。本研究は、ディレンマ状況を示すシナリオをベースに、実証実験に参加している市民の反応を調査し、これを分析することで、日本で適用できる(誰を保護し、誰に損害を与えることが社会的に許容されるのかという市民意識に根ざした)ガイドラインを取りまとめる。こうした実証的研究も、日本では最初の試みとなる。
4) レベル4 の技術が、緊急医療や災害時の救助活動等において、バックヤードでのロジスティックスを担う車両に適用できないかを検討する。海外では、自動運転車を危険な工事現場や炭鉱等で利用することが模索されている。この状況をも含め、日本でも同種の利用可能性を検討し、その成果を日本語と英語で公表する。

実際性:以下の実際性が認められる。
上記1)から4)は、いずれも、日本では実現されていない。倫理学や哲学等の抽象的議論だけに頼るのではなく、自動運転車の展開への不安と、その活用への期待(労働力人口の減少対策)等、市民意識に即した具体的な分析が求められている。そこで、この観点からの本研究は、実際性も高いと考えられる。

最終成果
上記1)から4)までについて、具体的な結論を示す(運転者の意義、過失、事故が生じても違法と評価されない基準、運行供用者の意義等の明確化)。その際、英国、EU、米国の事情を十分に踏まえつつ、現実的要請(レベル4 で走行する車両を先ずは物流にて活用し、自動運転技術の向上を図ること等)も考慮する。
この研究成果は、英語で公表し、各国の関係者との連携を維持、強化する。本研究の最終成果は、2024 年度中に一応の取りまとめを経た後、2025 年度以降、社会貢献プロジェクトの中で展開することとしたい。

同テーマの研究調査

一覧へ戻る