研究調査

research study

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睡眠障害スクリーニングの普及推進を目指した学際的研究

プロジェクトリーダー:谷川 武
年度:2012年, プロジェクトナンバー:H2422

背景と目的

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)は、夜間に頻回な呼吸停止と低呼吸を起こすことから睡眠の質が悪化し、昼間の覚醒度が低下することから居眠りや漫然運転から交通事故を起こす危険因子として知られている。中高年男性の約1割が中等度以上のSASであるとの報告がある。一方、SAS患者の多くは自覚的な眠気を有する者が少なく、突然の居眠りによる事故例が多いことから運転者の自覚が未だ低いことが問題となっている。(財)全日本トラック協会では平成17年度からSASスクリーニング検査費用を半額負担するといる補助事業を実施しているが大企業の参加は多いものの、トラック運転者の大多数を占める中小の運送会社に所属する運転者の参加は少ない状況である。また、申請者がこれまで安全運転管理者の講習会で講師を務めた経験からSASスクリーニング検査は職業運転者に限らず業務用車両の運転者、さらに一般の運転者においても有用であるとの考えに至った。一方、SASに関する啓発活動は交通安全の向上に有用であると有識者の間では既に認識されながらも国土交通省ではSASを周知するマニュアルの発行、警察庁では睡眠障害全般について眠気の有無を尋ねる問診の実施が施策として挙げられるのみで厚生労働省の労働衛生行政では何ら対策がなされていない現状である。我々の試算では、SASスクリーニング後に全ての患者が適切な治療を受けることにより、現状の交通事故の7~17%を減らすことが可能である。さらに、SAS以外のスクリーニング可能な睡眠障害に関しては、早期発見・早期治療の試みはほとんど皆無であり、SAS以外の睡眠障害への対策がなされれば、交通事故の低減に大きく貢献できると考えられる。
本研究では上記の医学的背景に基づいて奈良県トラック協会と連携し、奈良県下のトラック運転者を対象にSASならびにSAS以外にスクリーニング可能な睡眠障害のスクリーニング調査を実施するとともに医療機関との連携システムを構築することによってトラック運転者の主観的・自覚的眠気の改善効果を検証する。さらに、医学のみならず、人間科学、心理学、法学、ジャーナリズムの専門家を結集して睡眠障害の早期発見・早期治療を普及推進するための方策を探るとともに、スクリーニング可能な睡眠障害を早期発見・早期治療する社会の実現に寄与することを目的とする。

期待される成果

本研究は、研究調査を主とする初年度とその結果の社会への還元を主とする次年度の2年間での実施を希望します。
【平成24年度】
奈良県トラック協会(蓮花先生からご紹介)および傘下のトラック事業者、トラック運転者、奈良県民に全日本トラック協会が補助事業 を行っているSASスクリーニング検査を今よりさらに周知するとともに奈良県立医科大学呼吸器内科学木村弘教授に依頼して奈良県下のトラック運転者の新規発症SASの治療をSASスクリーニングと連携して実施する体制を構築する。上記と並行して奈良県トラック協会と共同でSAS以外の睡眠障害のスクリーニング問診票をトラック運転者に配布し、SAS以外の睡眠障害のスクリーニングも実施する。これらのスクリーニングで新たに見出されたSASもしくは他の睡眠障害が疑われる運転者に対して奈良県立医科大学もしくは関連専門医療機関での受診を勧奨する。受診および治療後の運転者の主観・客観的な眠気の改善度を比較し、その個別結果は本人に、全体の結果のまとめをトラック協会に、本研究から得られた知見をもとに作成した資料を県民に効果的にフィードバックし、SASをはじめとする睡眠障害スクリーニング検査が抵抗なくさらに多くのトラック運転者、特に中小零細業者においても受診が促進され、SASをはじめとする睡眠障害全般の早期発見・早期医療が推進される社会システムの構築を目指す。
上記の奈良県での取り組みと並行して岩貞先生には、県民への効果的な広報や運転者がSASスクリーニング検査、精密検査、治療継続の各段階での行動について効果的な啓発活動の提案をジャーナリズムの観点からご担当頂く。今井先生には、民法第714、715条に定められた責任無能力者の監督義務者等の責任、使用者等の責任を中心に関連法規を踏まえたトラック協会・事業者ならびに運転者に向けた提言をご担当頂く。
さらに、米国で警察官を対象にSASをはじめとする睡眠障害スクリーニング検査を実施して成果を挙げている米国Harvard大学医学部睡眠医学科(Charles A。 Czeisler教授)と連携し、同研究で用いられた睡眠障害スクリーニング問診の提供を受けた後に翻訳、バックトランスレーション等の作業を進める。さらに、日米の文化的背景の相違を考慮して我が国で広く使用可能な改訂版作成および睡眠障害スクリーニング普及に関する意見・助言を得る。
【平成25年度】
 本研究の社会への還元として以下のことを実施する。
① 奈良県トラック協会と連携してトラック運転者、県民への啓発活動
② 米国睡眠学会にて発表ならびに成果の普及のための専門家との打ち合わせ
③ 第86回日本産業衛生学会における市民公開講座の開催
④ 研究成果の学会誌等での公表ならびに提言の作成

成果物

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