研究調査

research study

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飲酒運転対策についての研究

プロジェクトリーダー:今井 猛嘉
年度:2008年, プロジェクトナンバー:H074

背景と目的

飲酒運転(酒気帯び運転、酒酔い運転)を防止するための諸施策について、平成19年度の研究実績を踏まえ、以下の観点から、より深い研究を行う。
 飲酒運転の防止策を研究するには、①飲酒運転の危険性を医学的ないし科学的観点から、改めて分析すること、②飲酒運転を許容ないし黙認している風潮を社会学的に分析すること、③これらを踏まえて、法律学の見地から、飲酒運転を禁止し、禁止違反に適切な制裁を設けること、が必要である。平成19年度は、①、②、③につき、それぞれ、基礎的な研究を行った。そこで得られたデータないし知見は有意義なものであるが、最終的に③(法的制度に関する具体的提言)の目的を達成するには、①、②の領域における研究の継続が必要である。また、①、②の研究を深化させるには、最終目標である③の観点からのフィードバックが常時必要であることから、③自体の継続的な検討も要請される。
 研究の方法については、平成19年度の実績を踏まえ、以下の手順を採ることにしたい。即ち、①については、平均的な日本人の運転操作を危険なものとする血中アルコール濃度の限界を、専門的ドライバーの特性、並びに、他国における血中アルコール濃度の基準値見直しをも視野に入れて、再検討する。②については、トラック業界、タクシー業界等、物流のために多数の自動車を常時、利用せざるを得ない業界関係者の意識調査を、平成19年度とは異なった観点から行い、一般ドライバーには認識されにくい飲酒運転の危険性ないし問題点を探り出すことにする。最後に、③については、飲酒運転を繰り返し行うことが予想される者にアルコール・インターロックを義務付ける命令等、他国において実施されつつある施策が、日本の法体系において受容可能であるか否か等を、法社会学と刑事法学の観点から分析する。
 以上の目的と方法論に基づき、飲酒運転対策の総合的研究を継続することにしたい。

期待される成果

 上記「目的と方法論」で示された問題関心から、以下の三点を柱として研究を継続する。

① 飲酒行為が安全な運転を阻害する危険性に関する医学的ないし科学的分析 
この点については、先ず、他国における血中アルコール濃度の基準値見直しの状況を再確認する。例えば、EC指令は、暫時、この基準をより厳格なものに引き下げようとしており、従前、同指令に従ってこなかったイギリスでも、同指令に沿った法改正の動きが生じている。そこで、こうした動向の背景にも留意しつつ、日本の現在の基準値がどこまで適切か(これを一段、厳格なものとすること可能か等)を、特に医学的見地から再検討する。

② 飲酒運転を許容ないし黙認している風潮の社会学的分析
この点については、平成19年度も基礎的なアンケート調査を行った。平成20年度は、引き続き、トラック業界等、自動車を常時、利用せざるを得ない業界関係者の意識調査を行い、一般のドライバーには認識されにくい飲酒運転の危険性ないし問題点と、道路交通法等関係法規による規制に対する意識(脱法行為が可能な領域があるか等に関する具体的な意見)を探り出すことにする。この結果を、一般的なドライバーの意識調査結果と比較対照することで、国民の多様な意識と、あるべき法的規制への意識を把握することが可能となろう。

③ 飲酒運転を禁止し、禁止違反に適切な制裁を新設することの検討
この点については、日本には存在しない種々の法規制を採用している他国の経験を、実証的に確認したい。具体的には、飲酒運転の再犯が予想される者に対するアルコール・インターロックの義務づけ(北欧のみならず、英仏においても検討されつつある)、血中アルコール濃度自己簡易測定器の義務づけ、飲酒運転者への社会奉仕命令、飲酒運転者の車両没収等の諸施策(後二者は、アメリカ合衆国のみならず英仏でも検討されつつある)が、特に注目に値する。
 これらの施策の導入は、日本の刑罰および行政制裁制度の見直しにもつながる、極めて波及効果の大きな重要問題である。そこで、そのような制裁が、一般人の規範意識ないし法遵守意識に合致しうるものかを、法社会学の見地から分析した後に、制裁としての正統性を刑法学の見地から評価することにする。

成果物

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