research study
人間の環境情報処理からみた交通事故多発地点の原因解析
背景と目的
自動車を含めた交通システムの目的からすると、安全に早く快適に移動できることが重要であり、また近年ではできるだけ少ないエネルギーを用いてという条件が加えられることとなる。質の高い交通システムは、特に安全性が非常に高いことが要求されるが・近年交通事故による年間の死者数が約1万人前後で推移している。この値は、自動車の増加率を考え合わせると、相対的に死者数が減少したと考えることもできるが・死傷者数で見ると増加しており、また犠牲者の絶対数から考えても交通安全に関する抜本的な対策を取る必要がある。交通事故による犠牲者を減らすだけの目的からは、制限速度の減少・交通規制による総量の減少等が効果的と考えられるが、この点のみに注意を払いすぎると、本来の交通システムの目的が度外視されることとなる。そこで、車両単体としては、受動的および能動的な安全付加装置の開発普及が検討され、また、交通システムとしては・ドライバに対する各種交通情報システムの普及ならびに交通管制システムの検討等、種々の面からの検討が行われている。
他方、交通事故の大半は操縦者の判断や操作ミスによるところが多いと言われており・人間工学的な検討、特にヒューマンインタフェースに対する検討が過去数々行われている。これは原子力発電所における事故や航空機における事故において、ヒューマンインタフェースヘの重要性が認識され、自動車を含め、他の分野においてもそのような問題点が注目されたためと考えられる。このような検討は主に操作ミスの低減にはつながるが・操縦に関わる本質的な判断ミスに対しては、十分な対策になり得ないものと考えられる。この理由としては、操縦者がどのような情報を用いて操縦しているのか、その操縦アルゴリズムはどのようなものであるのか等々を明らかにし、その中に誤認識を与える情報が含まれていないか、また事故に関係の深い情報は何であるかなどを明らかにして、初めてそのような判断ミスを減らせる提言ができるものと考えられるからである。しかし、これまでの事故解析が、必ずしもそのような観点から行われているわけではなく、またこのような解析に用いる手法が確立されている訳でもない。そこで、このような解析の第一段階として・操縦者の判断や操作アルゴリズムを明らかにするための解析ッールを獲得する必要がある。
本研究ではこのような観点に立ち、どのような事故例について検討を行うべきか・またどのような手法でそれらを明らかにできる可能性があるのか等々について・人間の視覚情報に関する検討、人聞の情報処理パターンに対する検討、および将来この関連の研究に対するドライビングシミュレータ使用の可能性についての検討を行うこととする・