research study
交通における文化的諸要因の国際比較
背景と目的
本報告書は1985年から1987年の3か年にわたり行った(llt)国際交通安全学会の研究「交通における文化的諸要因の国際比較」をまとめたものである。日本、カナダ、韓国の3か国の研究者の連携のもとに、交通事故発生に大きく関わりをもつ交通参加者の行動・意識、およびそれの背後にある社会規範・法律・教育、安全思想等に関する国際比較を行ない、交通問題の構造を明らかにしようと検討を加えたものである。国際比較研究という光りを当てることにより、それぞれの国の特性を一層明確に認識することが可能となり、それぞれの国の今後の交通安全対策に寄与できると考えたからである。
本研究を行なうに当たっての経緯を簡単に述べて記録にとどめておこう。国際交通安全学会では1985年以降の自主的研究の提案を求めたが、長山は交通行動、意識に関する国際比較の研究を1960年代から志していたこともあり、この領域の研究の実施についての提案を行なった。その提案に当たっては、1982年の国際交通安全学会の海外研究者招聘助成で来日し、1か月間大阪大学に滞在したカナダWaterloo大学教授Knapper教授と国際共同研究の同意が得られていたこともあり、長山は1985年1月のワシントンでのTRBの年次総会に出席の帰途カナダに立ち寄り、研究の大枠についての話し合いを行ない、それをもとに研究の提案を行ない採用され、国際比較の研究の実施に至った。
研究に当たっては経費的な関係もあり、日本の研究者を心理学、社会学、教育学の人間・社会を扱う分野に限り、人数も最低限に絞ったが、外国の共同研究者もカナダ、韓国の心理学の分野のふたりとした。
研究開始に当たっては、3か国の研究者たちの研究内容・方法についての意見交換を行ない、特に行動観察、意識調査の内容・方法についてはかなりの意見の食いちがいをみたが、最終的には同意を得、日本チームがイニシアチプをとって実施することになった。
本研究は「交通事故・違反その他の文献調査・統計分析」から始まり、「交通行動に関するフィールド観察調査」、「交通に関する意識調査」などの実証科学的データに基づく研究、さらに、「法・教育に関する文献研究」「安全思想に関する文献研究」から成り立ったものである。交通の問題事象として交通事故を取り上げ、それの説明要因として交通行動を、そして交通行動の説明要因としては交通に関する意識をはじめとしたその社会のメンバーの意識構造を、さらにその意識の背景にある法や教育、さらには安全に関する思想などを考えようとするものである。