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第9回IATSS国際フォーラム(GIFTS; Global Interactive Forum on Traffic and Safety)~国際シンポジウム~

第9回IATSS国際フォーラム(GIFTS)

2023年12月1日(金)に第9回 GLOBAL INTERACTIVE FORUM ON TRAFFIC & SAFETY シンポジウムが無事に終了いたしました。
当日の様子はIATSS Youtubeチャンネルにて公開しております。是非ご覧ください。
今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。

開催概要

イベント名:第9回GIFTS国際シンポジウム
日時:2023年12月1日(金)14:00〜17:00
会場:東京コンベンションホール
開催方法:ハイブリッド開催(会場開催、リモート開催:Zoom)
主催者:公益財団法人 国際交通安全学会

開会挨拶

武内和彦

国際交通安全学会(IATSS)会長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)理事長
東京大学特任教授

国際交通安全学会会長の武内和彦氏が、第9回IATSS国際フォーラムGIFTSの開催に伴い、来場者およびオンライン参加者への歓迎の辞と、関係団体、関係各位に対する謝辞を述べた。

国際交通安全学会は1974年に設立され、来年に設立50周年を迎えるが、これまで交通と交通安全を中心に調査研究を展開してきたと紹介した。現在の世界の交通環境について、大きな転換期であり、単に交通事故の削減だけでなく、カーボンニュートラル、ウェルビーイング、ICTなどの技術革新にも対応が必要であるという方向性を示した。

また、気候変動会議への参加や2050年までにネットゼロ達成への目標を挙げ、交通のあり方を検討する際には国や地域の特性、文化的背景を踏まえたトラフィックカルチャーの重要性について述べた。今回9回目となる本国際フォーラムは、テーマを「交通文化が支える持続可能な社会」として、参加した国内外の専門家による実りのある議論への期待を表明した。

趣旨説明

中村彰宏

IATSS会員/国際フォーラム実行委員会委員長
中央大学経済学部教授

国際フォーラム実行委員会委員長を務める中央大学教授の中村彰宏氏が、来場者およびオンライン参加者に謝意を表した。

交通社会、政府、産業、市民などにとって、超学際性の視点が重要であり、参加者が共に協力し、理想的な交通社会の実現に向けて活動すべきであると述べた。また、GIFTS国際フォーラムが今年9回目を迎え、IATSSが来年に設立50周年を迎えると紹介。本国際フォーラムは、理想的な交通社会の実現に向かってどのように活動すべきかを話し合うプラットフォームであると述べた。

最後に、今年のシンポジウムのテーマを再確認し、2人の基調講演の講演者、パネルディスカッションの司会、2人のパネリストを紹介し、学術と実務家の活発な意見交換への期待を述べた。

基調講演

ニコラス・ウォード

モンタナ州立大学名誉教授、Leidos 上級主席研究員

発表資料

ニコラス・ウォード氏は「交通安全文化を変える」をテーマに、安全の行動とはどういうものかを話した上で、死亡事故をゼロにするための取り組みについて講演した。

まず交通事故は偶然ではないことから、積極的に取り組むべきだという前提に触れながら、交通安全のための技術や教育では十分な事故の抑制にはならないと強調した。その上で、人が危険につながる行動をしないためのカルチャーについて分析した。人間は社会的な存在であるため、交通安全のステークホルダーにも社会的環境による影響が大きい。その例として、コマーシャルや映画で魅力あるヒーロー的な人は大幅にスピードを出していることが多く、スピードを出すことがかっこいいと思われている現状を挙げた。その上で、社会の意識を変容するためのコマーシャルの可能性について、いくつかの例を示した。

次に、道路ユーザーの行動に焦点を当てて考察すると、交通安全の文化は行動の変容に関する心理学的理論に基づいており、人々の価値観や信念が安全な行動に影響を与えると提起。これを理解するために、インタビューやアンケートを通じて交通安全の文化を定量化して分析が必要だと説明。最終的な目標は、文化の変容を通じて行動の変容を達成し、持続可能な安全な選択肢を提供することであり、文化の変容は自己の信念やアイデンティティを変えるものであり、これにより持続可能な結果が期待されると述べた。

また、安全な行動を促進するためには個々の行動に対するコストを考慮する必要があり、危険な行動が社会的にどのような影響を与えるかを考えることも重要だと説明。特定の行動がネガティブなイメージを持つのであれば、規範的な信念を変え、ポジティブな視点を持つような社会的キャンペーンが安全な行動の促進に効果的であると示唆した。

グループ内での期待される行動や規範は、信念に対して前向きな態度を示すことが重要であり、実際の状況と個人のイメージが異なる場合にはイメージを訂正して誤解を解く必要があると説明。ミネソタ州での調査を例に挙げ、実際のデータをコミュニティに伝えることで、ポジティブな行動変容が促進されることを示した。同様に、モンタナ州でも実際のシートベルト着用率が高いにも関わらず、多くの人がイメージとして低いと考えていた例を挙げ、実際の情報を明確に示すことが、社会全体で望ましい行動を奨励する手段となると述べた。また、イメージのコントロールも大切であり、ニュージーランドのコマーシャルを紹介し、他人に対しても働きかけることが重要だと強調した。

加えて、コミュニティ内で共有される価値観を理解し、それを利用することで交通安全をサポートできると示した。具体的な例として、シートベルトの着用を促進するコマーシャルを挙げ、家族という普遍的な価値観を通じて交通安全をサポートする重要性を示唆していると説明した。

最後に、交通安全の文化においてアメリカで提案されている「セーフシステム」アプローチを示し、全体として協力して機能する必要があるという理念を示した。また、主要なステークホルダーや組織が同じ価値観を持つことが重要であるため、セーフティシステムアプローチを価値観として浸透させ、交通事故死亡ゼロを目指していると述べた。

ロッテ・ブロンダム

Global Alliance of NGOs for Road Safety エグゼクティブ・ディレクター

発表資料

ロッテ・ブロンダム氏は「エビデンスを用い、友人を探そう。持続可能な都市のために」をテーマに、エビデンスにより導いた交通安全のための改善点を示したのちに、アライアンスの活動とSDGsなどの活動と親和性について講演した。

最初に、交通安全グローバルNGOアライアンスの組織について、交通事故の毎日の死亡者数をラジオプログラムで報告している活動を挙げ、その内容を説明。現在、世界人口の55%が都市部に住んでいる状況を示唆し、コラボレーションとエビデンスの必要性を強調した。

アライアンスでは、都市部での安全な環境を確認するために「モビリティスナップショット」と呼ばれる世界中の交差点の写真を撮影してモビリティとインフラの状況を調査する活動を行っていると説明。交通の安全性を向上させるためにはデータからのエビデンスが必要であると認識している。歩行者事故の多くが交差点で発生していることや、道路の設計が歩行者の安全性を考慮していない場合があることも指摘した。

この問題に対処するためには、比較的低いコストで改善できると強調。例えば、歩行者用の交差点を設置することや、交通量緩和対策や減速バンプの導入などを挙げた。具体的な例として、ナイジェリアのアブージャでの交差点の検証結果が紹介され、この活動が都市の歩行者安全性の向上に貢献できることを示した。

アライアンスがこれらの活動を行う理由は、世界中の多くの人々に、どのような都市に住みたいかを自覚し、その重要性を理解してもらい、行動を起こしてほしいからである。人々に、都市に住む上で望ましい状態を考え、そのために声を上げ、エビデンスを提供してほしいと呼びかけた。特に、子供たちが通学や帰宅する際に最も危険な状況が発生することに注目し、そういった状況の都市が望ましいものなのかを問いかけた。より良い住環境を作り、生活の質(QOL)を向上させるために、コミュニティ全体で行動を起こすことが必要だと強調した。

後半は、同じ目的もつ友人を探す重要性に焦点を当てて講演を行った。交通安全と共同の目標は人々、医療、健康、平等、公正などを優先する文化を作り出すことにつながっていると述べ、これにはSDGs(持続可能な開発目標)との連携も含まれており、他のアジェンダや気候変動などの異なる側面とも結びついていると示唆。コミュニティ全体で協力し、SDGsの一環として都市環境を向上させるために、異なる視点と利害関係者とのコラボレーションの重要性を強調した。

最後に、具体的な例として、車椅子を使う障害のある人々が安全な交通環境にアクセスできるようにする必要性に触れ、SDGsの目標である貧困の撲滅とも関連づけた。自動車事故が貧困のスパイラルにつながる可能性を挙げ、歩行者や自転車利用者の安全性向上が、ジェンダー平等や医療・健康にも影響を与え、経済的成長にも寄与する可能性があると述べ、持続可能な都市環境の構築が重要であると述べた。

パネルディスカッション

コーディネーター 馬奈木 俊介氏(九州大学工学研究院教授・主幹教授・都市研究センター長、国際交通安全学会(IATSS)会員)
パネリスト ニコラス・ウォード氏(モンタナ州立大学名誉教授、Leidos上席主任研究員)
ロッテ・ブロンダム氏(Global Alliance of NGOs for Road Safety エグゼクティブ・ディレクター)
北村友人氏(東京大学大学院教育学研究科教授、国際交通安全学会(IATSS)会員)
リンザ・ウェルズ氏(MDS Traffic Planners & Consultants ディレクター)

コーディネーターの馬奈木 俊介氏が、基調講演の内容に触れ、本パネルディスカッションの流れと趣旨について説明した。

リンザ・ウェルズ氏 発表資料

自己紹介の後に、歩行者の交通安全や公共交通機関の進化が、現在の社会でKPIとして明示されていないことを指摘した。東南アジアの例として、車の所有がステイタスと見なされ、社会的に受け入れられた移動手段であるが、車以外の交通手段の暗然として歩行者道路やバイクレーンの整備などの必要性を挙げた。

移動手段として歩行や自転車利用を促進する都市計画の必要性が強調され、具体例として、ロンドンの市街地の変化を通じて、環境改善がアクティブトランスポートユーザーにとって住みやすい地域を作り出すことにつながることを示した。道路安全には教育、技術計画、新たな問題への対応、法の執行が必要であり、これらに対する綿密な計画が求められていると述べた。

最後に、子供たちが交通安全の文化を学ぶことが重要であり、学校のカリキュラムの役割を論じた。さらに、政府や都市計画者は国際基準を遵守し、持続可能な都市環境を実現するためのポリシーを策定する必要があること。法の執行においても厳格な対応が必要であり、特にオーバーロード状態のバスや新しい交通手段に対する規制が必要であることを挙げた。加えて、自動走行車や新たな現象としての「ながら歩き」など、将来の課題にも対応する取り組みが求められていると説明した。

北村友人氏 発表資料

過去10年間に参加したIATSSのリサーチプロジェクトの経験から、いくつかの経験を共有すると述べ、1つ目として、バイクに3人以上が乗ると事故率が下がる現象を挙げた。これは、家族を乗せることで注意深くなるのが理由であり、大人数の乗車を推奨するべきではないが、運転中の安全意識に焦点を当てる必要があると提案した。

次に、JICAとの協力によりカンボジアで行われたプロジェクトを紹介。このプロジェクトでは、運転手にカメラを装着して運転中の行動を調査した。カンボジアのプロジェクトではJICAがプノンペン市内に新しい信号を設置し、その結果として信号が見やすくなったが、一部の交差点では、交差側の信号もよく見えてしまうために、前方の信号を見ずに発進してしまうという法令違反も多発したと報告。工学的な改善だけでなく、人々の法令順守の重要性を強調した。

次に、大阪府の中山間部に位置する能勢町の高校に焦点を当てた別のプロジェクトを紹介。この地域では人口減少が進んでおり、それに伴いバス便が減便された結果、高校生たちの通学が困難になっていた。この問題に対処するため、IATSSのプロジェクトで電動自転車を寄付したことで、学生たちが毎日の通学で道路の実際の状態を知り、地域の交通課題を把握する結果になったと説明。学生たちは市役所に対して改善提案を行い、地域の交通安全意識を高める結果となった。この事例から、交通安全教育の重要性が強調され、ただ法律を教えるだけでなく、学生たちが自ら考え、自立的に問題を解決できるよう奨励することが都市をより持続可能にする第一歩であると述べた。

また、社会的に弱者とされる子供、高齢者、障害者などへの配慮が持続可能な都市づくりにおいて重要であると強調。最後のポイントとして、持続可能な都市の実現に向けて、交通安全教育のKPIや重要業績評価手法に基づく教育の役割について言及した。文化は簡単に測定できないため、文化に関する指標の策定は難しいと指摘した。

ロッテ・ブロンダム氏 発表資料

スマートサスティナブルシティのKPIについての国連報告書がある一方で、未だに取り組まれていないKPIも存在することを指摘。これに対する課題とチャレンジについて述べた。世界中の80億人のうち55%は都市に住んでいるとの報告を示し、都市の設計や機能は住民のためにあるべきだとし、特に歩行者の安全性やアクセシビリティに焦点を当てて、カーフリーゾーンの整備や歩行者専用道路の設置などを提案した。

また、新たに4つのKPIを提案。1つ目はカルチャーとしても環境のためにも歩くことが重要であり、歩行が安全な社会をつくるべきだと述べた。それには、教会や学校の周りなどの人が多く歩く場所への制限時速30kmゾーンの導入を提案した。他の3つのKPIとして、歩行者用施設の整備、道路を安全に横断できるようにする、交通の静音化を提案した。これらの措置が、歩行者にとって安心できる都市環境を構築し、アクティブなモビリティカルチャーを促進し、健康やジェンダー平等、気候変動対策にも寄与すると述べた。

ニコラス・ウォード氏 発表資料

KPI(キーパフォーマンスインディケーター)ではなく、キープロセスインディケーターについて話した。持続可能な交通安全におけるKPIに焦点を当て、交通事故死0の目標を実現するために必要な条件を説明。まず、社会関係資本が挙げられ、これは信頼や協力といったリソースの活用が社会全体で必要であることを強調した。高い社会関係資本は医療条件の向上や交通事故死の減少につながると指摘し、アンケート調査を通じてこれを測定する方法に触れた。

次に、交通安全文化のKPIを取り上げ、強固な文化やゼロ事故への信念が重要であると述べた。文化の測定は難しいが、コミュニティの安全文化を理解し、アンケートやトラッキングを通じて時間をかけて評価することで、持続可能な安全文化の確立の可能性を指摘した。

最後に、KPIは時間思考で、将来志向の意思決定が持続可能な将来の鍵であると強調した。現在の意思決定が将来のためになるような共通のマインドセットを構築し、アンケートやトラッキングを通じて人々に時間をかけた意思決定を促す必要性を説明。これらの3つの心理的なコンセプトをディスカッションの材料に提供したいと述べた。

馬奈木 俊介氏がこれまでの4氏の主張のまとめとして、既存の測定評価手法が一部では利用可能であるが、特定の物事に対しては不足していると述べた。加えて、代替手段を見つけ出し、それが都市に与える影響を検討する必要があると述べた。また、一部は測定評価が難しいが、重要な要素もあるとし、関連する産業界や公的機関が共通の課題に取り組むべきであり、SDGsや他の報告書が示唆する指標は積極的に活用しながら、これに賛同する国民が増えることで実効性が増すとまとめた。最後に、他のパネリストたちに対して、これまでの各氏の主張について意見を求めた。

ニコラス・ウォード氏は特に北村氏の提案に感心し、北村氏のアイデアはユーザーが自身の課題を示すことで、具体的な問題の解決に繋がるとの視点に賛同した。また、ロッテ氏の持続可能な目標に対するアクティブなトランスポートの重要性にも賛成し、各国の条件が異なる中で特に東南アジア諸国での課題に焦点を当て、気候的な条件やインフラの未整備などへの対応が求められる中ではボトムアップのアプローチが必要であり、各国が自らの目標に向けて努力する姿勢が重要だと強調した。

北村 友人氏は、他のパネリストが提案した施策に賛成し、途上国での研究経験から低所得国や中途半端な所得国で公共交通が不足しており、車の所有がステータスシンボルとされる国があることを指摘した。これらの国々では急速な経済発展が進んでおり、モダナイゼーションが進む中で、公共交通の整備が追いついていないと述べた。経済成長に追いつこうとする中で、時間的な制約があり、先進国が達成しているものを短期間で実現しようとしている現状を指摘し、共通の価値観を醸成するためには時間がかかり、異なる国々で異なる時間軸を考慮する必要があると強調した。

ロッテ・ブロンダム氏は、60~70年代の急速な社会の発展では、自転車や歩行者に注意をしてこなかったことを指摘し、低・中所得国だけでなく日本のような国も再考すべきだと述べた。

ニコラス・ウォード氏は、参加者の素晴らしい洞察に感謝し、さらに文化や価値観の重要性に言及した。異なる文化には異なる価値観があり、これらが行動に影響を与えていると述べ、自身の経験として、ルワンダでの内戦や国の再建のプロセスを紹介し、歩行が文化の一部となり、平等な環境が文化を形成する重要な要素となっていると強調した。

加えて、健康や医療の重要性にも触れ、都市の高い密度が通勤時間や健康に影響を与える可能性があると指摘。交通安全に関する取り組みは他の社会的な価値やトピックと緊密に関連しており、縦割りではなくシステム全体で考えるべきだと主張した。最後に、データの利用に関する懸念を表明し、現行のデータだけでは十分でなく、新たなデータを取得して計画を立てる必要性を強調した。

次に北村 友人氏は、交通に限らず他のセクターがQOLやウェルビーイングに与える影響について質問した。異なるセクターの要素が互いにどのように関連し、KPIの中に組み込むべき要素は何か、測定不可能ながらも検討すべき重要な要素は何かについて意見を求めた。

その上で、これまでのディスカッションをまとめ、コンテンツの重要性、地域ごとの違い、地域社会へのアタッチメント、プロセスの重要性などが強調されたと述べた。また、AIやシステムの進化に伴い、インプットからアウトプットに転換するプロセスや、社会への影響を測定し、インパクトファイナンスをどう考えるかが重要であると指摘。最後に、交通手段だけでなく、持続可能な社会において重要な他の要素にも焦点を当て、外部からの貢献やエリアのつながりも考慮すべきだとまとめた。

リンザ・ウェルズ氏は、交通安全の文化やカルチャーの構築において、最も重要なのは若い世代に焦点を当てることだと強調した。交通安全の知識を習得することが肝要であると同時に、交通ルールを守らないとどうなるかといった悪い結果を知らしめて交通安全の意識を高めることも大切だと指摘した。

北村 友人氏は、教育の重要性について強調し、特に若い世代への教育・啓蒙が不可欠だと述べた。道路は公共の資産であるが、国のできることには限りがあり、国民自体が自律的に行動し、責任を持つ必要があると指摘。将来の仕事に備えて、特定の能力を育むためにはクリティカルシンキングやコミュニケーションスキルが必要であり、インクアリーベースの学習が道路の学習だけでなく重要であると強調した。このアプローチにより、学習者が問題を特定し、解決策を考えるプロセスを経て主要な能力やコンピテンシーを磨くことができるとし、国が果たすべき役割や市民が果たすべき役割についても考慮する必要があり、教育を通じてその感覚を醸成していくべきだと述べた。

ロッテ・ブロンダム氏は、スウェーデンの道路安全教育の事例を取り上げ、特に若い道路利用者への教育に焦点を当てたアプローチが有益であると述べた。国は安全な環境を提供する責任があり、教育と啓蒙が若い世代におけるクリティカルシンキングの発展に寄与すると説明。交通安全文化を受け入れることが重要であり、都市の計画においてサイクリングパスを優先する取り組みや、都市全体での速度制限の設定などを挙げた。それには、長期の計画が必要であり、各国や都市が自身のミッションアジェンダを設定し、独自の取り組みを行うことが重要であると述べた。

ニコラス・ウォード氏は、ビジョンの重要性に焦点を当て、交通安全と持続可能性のビジョンを共有する際には他のステークホルダーも巻き込むことが重要であると指摘。システムチェンジのアプローチを取り上げ、将来のビジョンを明確にし、その枠組みを構築し、関与するステークホルダーを特定するプロセスを強調した。例えば、交通事故死ゼロをビジョンとして提示することで交通安全関連の人々だけでなく、公衆衛生や社会の公正に関心を持つ人々にもアピールでき、モチベーションを高めるためにはビジョンの設定が鍵であると述べた。

会場から、クルマ社会を問い直す会の佐藤氏が発言。歩行者に優しい社会を構築し、特に小学生の通学路において安全な環境を提供する必要性に言及した。日本の現状について触れ、既存の交通安全教育が子供たちに対して危険への自己防衛を強調している一方で、大人たちが安全弱者に対する配慮が不足していると指摘。ビジョンに関して、ゼロ事故を目指すことの大切さを認識しつつも、その数字だけでなく、被害者の家族や愛する者を含めて考える必要があると述べた。自身が交通被害者の家族である経験から、被害者の立場やその家族への影響について共有し、先生方に対して交通安全についての理解を深め、被害者の立場を理解することを呼びかけた。

続いても会場から、日本大学の福田氏が質問した。途上国での経験をもとに、交通安全の文化に対する認知は国によって異なる現状を説明。ベトナムでは自転車からオートバイへのモビリティの変化が急速に起き、国民がその変化についていけない可能性があると指摘した。途上国には発展段階ごとに異なる状況がある中で、どのようにして交通安全の文化を構築するかについてパネリストにアイデアを求めた。

ロッテ・ブロンダム氏は、ベトナムに住んだ経験を踏まえ、経済発展と車の所有との関連性として、車を所有することがハイステータスであるとの価値観が広まっており、自転車や歩行は貧困の象徴と見なされがちであると指摘。この価値観を変える必要があるとし、環境問題や法規制に対するスカンジナビア諸国のアプローチを紹介した上で、車を持てない人たちのための交通手段を提供すべきだと主張した。

北村 友人氏は、これまでの経済成長から、質を求める生活へのシフトが起こっていると指摘し、一方で、これが先進国と途上国のジレンマにもなっていると指摘した。東南アジアの例を挙げた上で、経済発展の概念の変革が求められていると強調した。また、日本語のコメントにより交通安全教育のあり方について言及し、テクニカルな知識だけでなく市民性や価値観、意識を考慮した教育が必要であると主張。また、哲学的な問題や探究学習を導入し、交通安全教育を進歩させる必要性について言及した。

リンザ・ウェルズ氏は、海運および港湾業界には世界全体で同じ基準が存在し、異なる国の港湾や海運においても共通の基準が採用されていると説明。一方で、道路や交通の計画においては、国によって異なる基準や計画が存在することを指摘し、他の産業と同様に、交通安全においても共通の国際基準や標準の策定を提案した。

会場から、宍戸氏が、日常の外出で直面する安全上の課題に触れ、交通安全においては各国で異なる考え方があるものの、共通して「安全」が重要であると指摘。まだ点字ブロックや歩道のない道が存在することを挙げ、交通安全はさまざまな人々が安心して歩行できるような環境を作る必要があると強調した。その上で、安全に対する教育のあり方について質問した。

加えて馬奈木 俊介氏がZOOMに寄せられた質問として、カルチャーの測定評価、カルチャーをKPIに使用することについて、AIやIoTといった新しいテクノロジーは交通事故防止に役立てられるか。さらにリンザ・ウェルズ氏に向けた質問として、地域ごとの交通移動手段の確保の仕方や、e調達にはどういったものが必要かと述べた。

リンザ・ウェルズ氏は、質問に対して地域ごとの交通がどう変化しているかを質問者に尋ねた。

北村 友人氏はe調達の質問に対して、交通安全教育のプロモーションにおいてはテクノロジーの利用が不可欠であり、生徒がリアルな状況を体験できるような手段が求められていると強調。個々のニーズに合わせたパーソナライズされた教育教材の開発が必要であるとの見解を示した。さらに、スウェーデンの教育についての調査研究を行っていると紹介し、スウェーデンでは交通安全教育だけでなく、主体性や自立性を重視する教育が進んでいると述べ、個々の意思決定や自律性を促進する教育アプローチが交通安全教育にも適用できるとの意見を示した。

続いてロッテ・ブロンダム氏は、教育において学んだことと実際の状況の乖離や、リスクに対する適切な認識が不足している可能性に言及。また、各地域で安全を促進するための課題として、道路安全に対する法的拘束力の不足を指摘し、国際的な協力と規制の必要性を強調した。特に、国際機関や異なる地域間でのネットワークを活用して、交通安全文化を促進するための取り組みが必要であると述べた。

最後にニコラス・ウォード氏は、文化に関する質問に対して、文化は複雑であり、人々の行動や価値観が影響を与えていると強調し、交通安全文化の考え方は提示によって変わり、信念や価値観を変容させるツールとしての文化が重要であると述べた。文化を行動変容のツールとして捉え、共通の価値観がグループ内で共有されていると考えれば、情報を得るためにはツールは必要ないと説明。アンケート調査やインタビューを通じて、共有される価値観や信念を理解し、定量化することができると指摘した。また、文化は時間の経過とともに変容するものであり、交通安全事故をゼロにするためには、それを望む価値観が社会に浸透する必要があると述べ、文化を変容させて成功している例を見ると、モチベーションを持った社会人が新しいイノベーティブなソリューションを生み出し、社会が変容に対応する機会が生まれるとして、パネルディスカッションを締めくくった。

閉会挨拶

河合信之
IATSS専務理事

国際交通安全学会(IATSS)専務理事の河合氏は、パネリストに感謝の意を表明し、さまざまな知識、経験、専門知識の貢献によりGIFTS国際フォーラムを成功裏に行うことができたと述べた。

また、GIFTS国際フォーラムは9年間にわたって交通安全の改善方法について世界中のモビリティの違いを考慮しながら議論されてきたと強調。異なる文化や背景による概念の違いがあるものの、交通安全が共通の課題であると説明した。すべての市民が交通安全の関係者であり、実際の変化は人々によってもたらされると述べ、今後もIATSSが将来の政策に有益なインサイトとインスピレーションを提供し、知識を広げていく意向を示した。

最後に、来年はIATSSの50周年であることを説明し、参加者および関係各位への感謝の辞を述べて、本シンポジウムを閉会した。

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