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第8回IATSS国際フォーラム(GIFTS; Global Interactive Forum on Traffic and Safety) ~国際シンポジウム~
第8回IATSS国際フォーラム(GIFTS)
2022年11月29日(火)に第8回 GLOBAL INTERACTIVE FORUM ON TRAFFIC & SAFETY シンポジウムが無事に終了いたしました。
当日の様子はIATSS Youtubeチャンネルにて公開しております。是非ご覧ください。
今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。
開催概要
イベント名:第8回GIFTs 国際シンポジウム
日時:2022年11月29日(火)13:30〜16:35
会場:大手町プレイス カンファレンスセンター
開催方法:ハイブリッド開催(会場開催、リモート開催:Zoom)
主催者:公益財団法人 国際交通安全学会
開会挨拶
武内和彦
国際交通安全学会(IATSS)会長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)理事長
東京大学特任教授
国際交通安全学会会長の武内和彦氏が、第8回IATSS国際フォーラムGIFTSの開催に伴い、来場者およびオンライン参加者への歓迎の辞と、関係団体、関係各位に対する謝辞を述べた。
IATSSについて、超学際性を尊重し、学術界と社会がともに共創していくという観点から、世界各地の文化、交通の役割を検討するために、2015年より国際フォーラム(GIFTS)を開催して、持続的な知の共創を目指していると紹介した。続いて、第8回目となる今回のシンポジウムについて、「価値を創造する交通文化」をテーマに、モビリティがもたらす正の側面について考えるとともに、ポストコロナ時代を見据えた理想的な街づくりと、交通社会の在り方について、有識者とともに討議するとの方針を示した。
最後に、モビリティがもたらす正の側面について、分散型社会による自律的な地域づくり、情報革命の活用による世界各地とのネットワークづくりを例に挙げ、世界各地の事例を踏まえながら、新しい交通社会の実現に向けた、実りのある議論への期待を表明した。
趣旨説明
中村彰宏
IATSS会員/国際フォーラム実行委員会委員長
中央大学経済学部教授
国際フォーラム実行委員会委員長を務める中央大学教授の中村彰宏氏が、来場者およびオンライン参加者に謝意を表した。
超学際的な取り組みを促進すべく開催している本国際フォーラム(GIFTS)について、安心安全な交通社会の実現に向けて、技術革新・公共交通の在り方を検討するために、世界各国の専門家、国際機関の実務者による幅広い議論をしてきたことを紹介した。また、フォーラムを通じて作り上げてきた国際的なネットワークを活用して、これまで積み上げてきた知見を世界に発信して、リソースを活用してもらいたいとの展望を述べた。
続いて、遠い将来の理想を見つめて、今何をすべきかを議論すべきであることを強調。昨年のフォーラムでは、世界各国における交通事故削減など、負の側面をいかに削減していくべきかについて議論したが、今回のフォーラムでは、公共交通の整備を通じたより良い街づくりなど、正の側面をいかに増やしていくかについて議論していくことを説明した。ここ数年のコロナ禍での移動制限で、多くの人が移動に伴う正の側面を実感したことにも触れた。
最後に、基調講演者の中村文彦氏への感謝を述べるとともに、3名のパネリストについて紹介した上で、学術者と実務者がともに討議し、多様な議論がされることを期待すると述べた。
基調講演
中村文彦
IATSS会員
東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授
IATSS会員である中村文彦氏は「価値創造のモビリティ」をテーマに、移動の大切さ、場の大切さ、公共交通の再定義、価値創造のモビリティの再構築、新技術の期待される役割について講演した。
まず移動の大切さについて、コロナ禍で外出率が低下していることに触れながら、主観的健康と外出頻度についての研究データを紹介。健康保持のために移動が必要であるとともに、移動するには目的地・場・活動が必要であることを強調した。また、移動による効果として、地域の活動の活性化、移動サービスの需要創出のほか、都市経営的視点として、街中の賑わいによる地代上昇や税収増、健康増進による医療費節約や補助金節約などを挙げた。
次に場の大切さについて、Link and Placeという新しい考え方を提示。ピーター・ジョーンズ氏のスライドを使って、自動車中心の街から公共交通の充実、さらには交通制限による街の開発へと時代が変化してきたことを説明しつつ、歩行者に優しい道路、市役所前の大きな広場、駅に設置された海が見えるカフェ、駅前マーケットなど、世界各地における空間の利用方法の変化を事例とともに紹介した。電車を利用しない人が駅を訪ねるなど、今までにない「場」の活用により、持続可能性、創造、強靭、多様といった効果が期待できることを提案するとともに、こうした「場」をつくるためには、いろいろな交通手段で誰もがアクセスできること、さまざまな過ごし方ができること、リスク管理ができていることが重要であると述べた。
公共交通の再定義については、誰もが気軽に使えることが重要であると述べ、従来は道路混雑緩和、安全、輸送力、速度、正確、赤字がない(効率性)等に注力して議論が進められてきたが、これからは、移動の選択性、移動の自由、さらにはWalkable、Reliable、Enjoyable(歩けること、信頼できること、楽しいこと)の観点も必要であると強調した。
価値創造のモビリティの再構築については、従来の通勤・通学を中心に考えられてきた都市交通ではなく、文化的創造的機能を中心とした、もっとわくわくと余韻を味わえる空間が創造できるのではないかと提起し、コロンビアの「自転車天国」や郊外バスターミナル広場での文化イベント、ドイツの中心地区広場、韓国の水際広場などの事例を紹介した。また、こうした空間は徒歩や公共交通でアクセスすることで、さらなる主観的幸福感につながると補足しつつ、余韻都市から価値創造へ向かうために何が重要か、どんな方策ができるかを語った。
新技術については、質の高い、大量で詳細なデータを用いた、診断・検証・評価、特に描いた未来ビジョンの事前評価、実証実験実施と評価のサポートが期待されることを述べ、シェアサービスによる移動選択肢の増加、自動運転技術による魅力的な車両や新しいサービスの創造、MaaSによる地域内移動サービスの包括的案内、チケッティングなど、多くの可能性があることを示した。
最後にまとめとして、新しい時代のモビリティ(移動性)、アクセスと場がつながっていくことで、魅力的で持続可能な都市が形成できることを改めて強調した。
パネルディスカッション(ショートスピーチ)
コーディネーター | 中村文彦氏 |
パネリスト | ズザンネ・エルファディンク氏(ドイツ在住) ピムスク・サニット氏(タイ在住) ヴァンソン藤井由実氏(フランス在住) |
コーディネーターの中村文彦氏が、3名という少数のパネリスト、かつ全員が海外在住という特徴的な点に触れつつ、本パネルディスカッションの流れについて説明した。
ピムスク・サニット氏 | 発表資料 |
タイ在住のサニット氏は、自己紹介として経歴、専門分野、取り組んでいる研究とプロジェクトについて話した。最新の研究では、タイの都市モビリティの未来として、バンコクを例に研究をしていると述べ、一例としてオートバイを活用した短距離非公式サービス、オートバイタクシーを紹介。交通渋滞の多いバンコクで重要な役割を果たしていることから、将来的にはサービスとしてMaasに統合すべきとの考えを示した。さらに、オートバイはフードデリバリーや小包の配送サービスにも利用され、ドライバーは経済回復の中で重要な役割を果たすと同時に、コミュニティレポーターとして自然派生的なサーベイランス活動も行っていると説明した。
また、タイの主要都市における公共交通機関の役割について、特にバンコク以外では、非公式交通手段が広く使われていることを紹介。非公式交通として、ソンテウと呼ばれるタイのパラトランジット(乗り合いタクシー)、そしてオンデマンドモビリティとMaasの台頭として、トゥクトゥク等を呼ぶことのできるMuvMiというアプリを例に挙げた。一方、政策としては、日本でいう路面電車のようなLRTなど、大量輸送システムの開発による商店街の活性化が期待できることを示した。
ズザンネ・エルファディンク氏 | 発表資料 |
ドイツ在住のエルファディンク氏は、自己紹介として経歴を話される中で、調査研究から現在は実務にも携わっていることを説明した。ドイツの状況については、人口の大都市集中や気候変動への懸念などが増していることを紹介。従来の自動車中心の交通が、ある程度の金銭を所有する労働者のための仕組みであることに触れ、未来に向けて、例えばハンブルク市が自動車の交通分担率を2割に減らし、徒歩・自転車・公共交通を8割に引き上げようとしていることを説明した。これにより、特に子供や、高齢者、障がい者が安全に移動できるようになれば、自立した生活を後押しすることができるだけでなく、社会福祉の負担も軽減されることが期待されていると語った。
最後に、従来の自動車中心都市が、都市へ通勤する「男性」の移動パターンを重視して作られてきたことを指摘した。これからは短い距離の移動、子供や高齢者との移動、地区内での移動が多い「女性」の移動パターンを重視し、徒歩や公共交通の利便性を高めることが重要であると述べ、コンパクトシティを作ることの重要性を強調した。
ヴァンソン藤井由実氏 | 発表資料 |
フランス在住のヴァンソン氏は、日本の大都市は公共交通が整備されているものの、地方都市は依然として車中心で人の姿が見えないと指摘した。一方で、フランスは車社会だが、地方都市を含めて全国で公共交通の整備が進み、市街地活性化に成功していると説明。さらに、徒歩環境を整える「15分都市構想」が、コロナ禍の厳しいロックダウンや、選挙におけるパリ市長の公約に後押しされ、斬新な道路空間の再配分が進んでいることを紹介した。合わせて、地方自治体が主導して構築しているMaasプラットフォームの事例、スマートシティ実装都市の事例などを示した。
また、フランスはこの30年間、交通政策も文化政策も市民の健康につながるという観点から街づくりを進めてきたが、こうした背景には、地方自治体の財源と人材確保の自主性、拘束力のある都市計画マスタープラン、高い環境保全への市民の意識、歩行者と道路交通の安全を最優先にした街づくりへの公金投与に対する民意の同意、法律で守られた都市計画策定への市民参加のプロセスなどがあると強調した。最後に、かつては車中心だった地方都市の中心広場が、人中心の歩きやすい楽しい場に生まれ変わった様子を示し、車の少ない都心の景観が「持続可能な発展都市」を市民に見せてくれたと締めくくった。
パネルディスカッション(ディスカッション)
中村文彦氏がサニット氏に、インフォーマル交通のネガティブな印象をポジティブに変えられるのかと尋ねた。
サニット氏は、インフォーマル交通はルートや価格などを政府がコントロールできないと明言した上で、マストランジットの利用者が減っていることから、住民の需要に直結するインフォーマル交通に、政府が大規模な投資を行うことは効果的だと答えた。特にコロナ禍では、より小さな空間で移動したいという要求があったと述べ、これまでのデータを活用し、フォーマルにできれば、タイの公共交通の質をさらに高め、歩行者のための街づくりも進めることができるとの期待を語った。
エルファディンク氏には、通学の問題における対応事例を尋ねた。
エルファディンク氏は、学校にポスターを掲載し、どれくらい歩いたかを個人またはチームで競い、たくさん歩いたら賞を与えるといったゲーム感覚の声掛け事例を紹介した。また、数学で駐車スペースを計算させたり、美術でどういう色や形が視認しやすいかを問うなど、交通安全およびモビリティ教育を各科目のカリキュラムに取り入れている州もあると回答した。
ヴァンソン氏には、「15分都市構想」について補足説明を求めた。
ヴァンソン氏は、15分都市構想は2016年に発表された計画だが、コロナ禍に後押しされたと説明。在宅勤務が増え、ポストコロナにおいても通勤を避ける人が増えたことから、通勤時間をマネジメントすることで、より充実した生活を送れるのではないかとの考え方が浸透し、地方都市機能の魅力が見直されているという。
続いて中村文彦氏は、コロナ禍の3年間で何が変わったか、人々の生活への影響について、それぞれの国の状況を尋ねた。
サニット氏は、タイでの一番大きな変化は、食品の買い出しだと回答した。以前はほとんどの人が昼食を外に買いに行っていたが、コロナ禍ではギグワーカーが増えたこともあり、デリバリーサービスを頼む人や、料理を楽しむ人が増えたと説明した。ただし、感染を恐れて自動車を使うようになった人もいるため、ピーク時の交通渋滞は緩和されたものの、公共交通より車の利用が多い傾向にあると補足した。一方で、コロナ以前から、特に若い世代は自動車を使わなくなり、TODという考え方も台頭しているため、公共交通機関の再定義が起きるかもしれないと指摘した。
エルファディンク氏は、テレワークが急激に増えたが、感染が落ち着いてきた現在は、人と会いたい気持ちが増してきていると回答。また、洋服や靴をインターネットで購入する傾向が増したため、地方都市の商店街に大きな影響が出ていることを指摘した。一方で、遠出ができなかったために、地元の魅力を再体験できたこと、車より自転車の利用が増えたことを補足。公共交通については、利用者が大幅に減ったことで、コスト面から本数を減らした地域もあれば、混雑を回避するために本数を増やした地域もあったことを紹介した。さらに、エネルギーコストの上昇から導入された期間限定の9ユーロチケットが好評だったことから、継続的な49ユーロチケットの導入について議論されていることに触れ、公共交通の発展への期待を示した。
ヴァンソン氏は、大きく2点に触れた。1つは、5~8キロの短距離移動への関心が高まったこと。2019年12月に制定されたモビリティ基本法のテーマは「日常の全ての市民の移動を大切にすること」であったが、コロナを経て民意の同意が得られやすくなったことで、フランス政府は地方都市に多大な投資を行い、自転車専用道路や歩行者空間の整備などを進めていると説明した。もう1つは、社会のデジタル化が一挙に進んだこと。市民によるMaasの利用は当たり前となり、経路検索では、料金だけでなくCO2排出量もわかるということ、また、行政サービスのデジタル化が進み、自宅から行政サービスを受けられるようになったことを紹介した。
最後に中村文彦氏は、価値創造のモビリティに向けた課題を尋ねた。
サニット氏は、全ての人に平等であることが大切だと回答した。貧困や高齢により取り残される人が出ないよう、価格を含め、あらゆるアクセシビリティを高めることが必要であると強調した。
エルファディンク氏は、車のために最適化された空間に満足していた人もいることを指摘しつつ、社会への十分な説明が必要であると回答した。
ヴァンソン氏は、車との共存が必要であると回答した。フランスは、2035年から電気自動車に完全シフトする、20~30キロゾーンを設けるなど、歩行者優先による穏やかで楽しい公共空間を目指していることを紹介した。
パネルディスカッション(質疑応答)
会場からヴァンソン氏へ、フランスの15分都市構想と、日本のコンパクト・プラス・ネットワークとの違いについて質問があった。
ヴァンソン氏は、都市の中に既にある機能の利便性をさらに高めて使っていく点が違うと回答した。
会場からエルファディンク氏へ、人口が減少している中で街をコンパクトにしていくことで生じる、莫大な費用と公共サービスの質の低下について、コメントが求められた。
エルファディンク氏は、学生への教育が足りないことを指摘し、どうしたら都市をうまくコンパクトにできるかに注目するべきだと回答した。地方都市では人口がどんどん減っているため、地域の特徴を出していくことが肝心だと述べ、リモートワークが増え、通勤回数が減っている現状を考慮すると、魅力が増せば地方に住む人も増えるはずだと主張した。
会場からサニット氏へ、タイのインフォーマル交通について、政府プランには出てこないが、どこがアイデアを作り出すのかとの質問があった。
サニット氏は、インフォーマル交通を管轄する省庁はないと述べた上で、中央政府が地方に権限を委譲することが必要だと回答した。現状では、各サービスプロバイダーが交通省から許認可をもらっているが、これを各都市が活用できるといいと話した。
会場から、価値創造には社会共通の価値観、リーダーシップが重要だと実感したとの感想があった。また、それを踏まえた上で、日本はどうしたらいいかとの問題提起があった。
エルファディンク氏は、政権が変わったり、地方によって方針が変わってしまわないように、一般の人々の意識も同時に育てなければいけないと回答した。
オンラインから、地方自治体は公共交通にどう関与すべきかとの質問があった。
ヴァンソン氏は、フランスでは法律が整備されているため、「みんなの都市」をつくるという意識が高いと述べ、税金が高いこと、ジェンダーと年齢の多様性が確保されていることが、社会の関心の高さに繋がっていると回答した。
オンラインから、個人所有の交通手段を持ちたいという要求もあるが、何を重視すべきかとの質問があった。
中村文彦氏は、公共交通に向かうべきと回答した。
オンラインから、どのような方法あるいは視点で安全な通学が可能になるのかとの質問があった。
エルファディンク氏は、大人の考え方に影響しなければいけないと回答した。自動車を今まで通り使っていたら、電気になっても交通量は減らず、通学の安全性も変わらないと指摘。自治体の取り組みをきちんと伝え、自動車社会にどう対応するかではなく、どんな街に住みたいかという論点で議論をしていかなければならないと語った。
中村文彦氏は、最後の論点はまさに今回のまとめだと述べ、公共交通のさらなる発展に努める意思を表明し、パネルディスカッションを締めくくった。
閉会挨拶
鎌田聡
IATSS専務理事
国際交通安全学会(IATSS)専務理事の鎌田氏は、世界各地から多数の参加を得たこと、活発な議論や示唆に富んだ提言により、有意義なシンポジウムになったことに触れ、第8回GIFTSシンポジウムの講演者と参加者、そしてイベント支援組織に対して謝意を表した。
GIFTSではIATSS設立50周年に向けて、視点を変えながら、交通について幅広い議論を展開してきたと述べ、過去7回を振り返った。今回のシンポジウムについては、「価値を創造する交通文化」という、世界中で注目されている課題をテーマに、刺激的な議論ができたと評価し、同時に、具体的な政策につながることへの期待、2024年に向けたさらなる発展への意思を表した。また、国際交通安全学会は学際的な構成、かつ少数精鋭で深い議論ができることを強調し、翌日の関係者での議論を含め、50周年という機会をとらえて発信していく決意を表し、期待してほしいと語った。
最後に、IATSSによる今後のイベントについて案内した後、参加者および関係各位への感謝の辞を述べて、本シンポジウムを閉会した。