research study
日本のラウンドアバウトデータベース
「日本のラウンドアバウトデータベース」の公開を開始しました
2022年度の研究調査プロジェクト2220「データベース整備に基づいた日本のラウンドアバウトの実態と事例情報の発信」の成果として作成した、「日本のラウンドアバウトデータベース」の公開を開始しました。
URLは以下です。
https://rabmap.trpt.cst.nihon-u.ac.jp/
本Webサイトは、日本のラウンドアバウトの導入実態を広く一般に知っていただくとともに、今後の導⼊計画において参考としていただくために制作したものです。
プロジェクトの概要は以下の通りです。
2220プロジェクト(社会貢献)
データベース整備に基づいた日本のラウンドアバウトの実態と事例情報の発信
プロジェクトメンバー | 所属(2023年3月現在) |
---|---|
プロジェクトリーダー | |
中村 英樹 | 名古屋大学大学院環境学研究科 教授 |
IATSS会員 | |
鈴木 弘司 | 名古屋工業大学工学部 准教授 |
永田 潤子 | 大阪公立大学大学院都市経営研究科 教授 |
浜岡 秀勝 | 秋田大学理工学部 教授 |
特別研究員 | |
阿部 義典 | 国際航業(株)インフラマネジメント部 道路計画担当部長 |
池田 武司 | 国土交通省国土技術政策総合研究所道路交通安全研究室 室長 |
井料 美帆 | 名古屋大学大学院環境学研究科 准教授 |
上坂 克巳 | (公財)交通事故総合分析センター 常務理事 |
奥城 洋 | セントラルコンサルタント(株)東北支社道路交通部 上級主任技師 |
康 楠 | 南京工業大学交通運輸工程学院 副教授 |
神戸 信人 | (株)オリエンタルコンサルタンツ交通運輸事業部 副事業部長 |
下川 澄雄 | 日本大学理工学部 教授 |
高瀬 達夫 | 信州大学工学部 准教授 |
高橋 健一 | 三井共同建設コンサルタント(株)道路第一部 部長 |
張 馨 | 名古屋大学大学院環境学研究科 講師 |
松村 みち子 | タウンクリエイター代表 / IATSS顧問 |
宮坂 好彦 | (株)建設技術研究所東北支社道路・交通部 次長 |
宗広 一徳 | (国研)土木研究所寒地土木研究所寒地交通チーム 主任研究員 |
吉岡 慶祐 | 日本大学理工学部 助教 |
米山 喜之 | (株)長大社会基盤事業本部第1道路部 担当部長 |
渡部 数樹 | (株)オリエンタルコンサルタンツ関東支社交通政策部 次長 |
オブザーバー | |
牧内 一司 | 飯田市建設部地域計画課 課長 |
近藤 益生 | 飯田市建設部地域計画課 課長補佐 |
研究の概要
1. 背景と目的
2009年度よりIATSSの研究調査プロジェクトでラウンドアバウト(RAB)の実用展開に着手して以来、2014年には改正道路交通法も施行され、全国各地でRABの導入事例が増加している。これらのRABにおいては、その構造や交通条件、適用場面などにおいて、様々な特徴を有するものが出てきているものの、それらの実態は必ずしも十分明らかになっていない。このため過去2箇年に亘る2007A、2107Bプロジェクト「日本のラウンドアバウトデータベースと事例集の整備」では、全国140箇所に及ぶ日本のRABの100項目に関するデータベースの整備とそれに基づく事例の体系的整理を行うことで、これらの導入経緯、合意形成、適用場面、構造、立地特性(図-1)、課題などについての特徴を明らかにしてきた。
本プロジェクトは、これらの成果に基づき、データベースに関するウェブサイト整備とセミナー開催を行うことによって、日本のRABの実態に関する知見と数多くの興味深い事例についての情報発信を行うものである。また、セミナーにおける意見交換を通じて、実務上のニーズや課題についての情報を収集し、データベースの内容にフィードバックを行う。これらにより、道路交通安全と持続可能なまちづくりに寄与する望ましいRABの普及に向けて、IATSSから社会貢献を行うものである。
2. 研究内容
2.1 Web公開用RABデータベースシステムの開発
(1)利用対象・活用方法
Web公開用システムの開発にあたっては、まずはターゲットとする利用対象や活用方法を整理した。本システムがターゲットとする対象・活用イメージは以下のとおりである。
①RABの導入を計画または検討中の自治体等の道路行政担当者・コンサルタントの設計技術者に対して、類似事例や参考とすべき好事例の提示、幾何構造の比較等を通じて、導入の計画や設計を支援する。
②広く一般に向けて、国内のRAB導入状況を地図上で分かりやすく示し、認知度や理解の向上を図る。
③大学等の研究者に対して、RAB導入箇所の位置情報や幾何構造などの基本情報を網羅したデータベースを提供し、研究調査活動を促進する。
(2)システムの機能・特徴
上述の利用対象・活用方法を踏まえつつ、データベースとして蓄積すべき情報、システムに必要とされるコンテンツと具体的な機能の議論を進めた。本データベースに収録されている情報は、通称名、所在地、立地特性分類、接続路線名、枝数、外径、供用年月日、緯度・経度であり、特記事項が入力可能な備考欄も設けている。本システムは、無料のオープンソースであるLeaflet(Web地図サービス)とPostgreSQL(リレーショナルデータベース管理システム)を使用し、ブラウザ上でデータベースの処理や地図との連動表示が可能なものとなっている。利用者はインターネットを通して常時アクセス可能であり、現場での使用を想定しスマートフォンでの閲覧にも対応した(図-2)。
その他、本システムの主な機能は以下のとおりである。
- 国内のRABを地図上で表示し、枝数・立地特性などの特徴別に、色分け表示やレイヤー切替えが可能となっている(図-3)。
- 事例収集の参考となるよう、好事例に対しては星の数による評価が示される。
- 住所やキーワード等による検索とデータベースの出力機能(図-4)、さらには都道府県別箇所数等の簡易なグラフの作成が可能なダッシュボード機能(図-5)を備えている。
- 地図上のRABのシンボルをクリックすることで、当該箇所の主要情報と全景がわかる写真をカードとして表示できる(図-6)。
- 新たなRABが供用された場合の追加登録など、今後の継続的なデータベースの更新を見据えて、システム上で簡易に更新作業ができる管理者機能を備えている。
2.2 セミナー開催等による情報発信
(1)ラウンドアバウトサミット in 長井における情報発信
2013年の環状交差点に関する道路交通法改正直後の2014年に設立され、2023年時点で全国14の自治体により構成されているラウンドアバウト普及促進協議会では、設立当初より毎年(2020年より隔年)全国各地において「ラウンドアバウトサミット」を開催し、RABに関する情報発信と意見交換を行っている。IATSSは当初より本協議会にオブザーバーとして参画し、サミットにおいても後援するなど各種活動を支援してきた。今年度は2022年10月27~28日に山形県長井市の長井市民文化会館で開催され、自治体など行政関係者、民間技術者を中心に約200名の参加があった。本プロジェクトからは2本の基調講演(図-7、図-8)と3本のポスター「国内ラウンドアバウトの導入状況の経過」、「国内ラウンドアバウトの立地特性分析」、「国内ラウンドアバウトの好事例分析」の講演を行い、2007A、2107Bプロジェクトの研究成果について公表し参加者と意見交換を行った。
(2)熊本市におけるラウンドアバウトセミナーの開催
2022年12月8日に、本プロジェクト主催によるラウンドアバウトセミナー「ラウンドアバウトを活かしたまちづくり・地域づくり」を熊本市国際交流会館にて開催し(図-9)、行政関係者、民間技術者を中心に101名の参加があった。熊本市を開催地とした趣旨は、2016年4月の熊本地震により甚大な被害を受けた地域であること、並びに九州地方におけるRABの普及に向けて情報発信を行うことを意図したためである。冒頭にPLからセミナーの趣旨やRABデータベースに関する趣旨説明を行った後、国交省、警察庁からの情報提供、大分工業高等専門学校の亀野辰三名誉教授による基調講演に続いて、「これからのまちづくりとラウンドアバウト」と題したパネルディスカッションを行った。パネリストには、本プロジェクトメンバーに加えて地元の御船町や大分県からも登壇していただき、RABデータベースの知見と現場での導入経験を織り込みつつ、RABを活かしたまちづくり、地域づくりについて活発な意見交換が行われた。
参加者に対する事後オンラインアンケート調査の結果、67名の回答者全員から有意義であったとの回答を得ることができた。自由記述意見としては、導入経緯、導入前後での地域の変化等に関する様々な全国事例、中央島の利活用によるまちづくりへの貢献やシンボルマークに適した構造、供用開始後の課題、解決策の事例紹介、などに関する情報提供を引き続き行ってほしいとの希望が出された。また、RAB導入調整段階や導入後に生じた問題点や、短所についての情報に対する要望も寄せられた。
3. おわりに
本社会貢献プロジェクトでは、RABデータベースのWeb公開システムを開発するとともに、セミナー開催による情報提供・意見交換の実施を通じて、自治体や国民に研究調査結果に関する情報を提供し実務上のニーズやRAB普及に際して克服すべき課題などに関する意見を収集した。本プロジェクトでの活動を通じて、自然災害の頻発する日本での、道路ネットワーク上へのRABの戦略的配置によるまちづくり・地域づくりの重要性を再認識するとともに、継続的な情報発信の重要性や課題についても十分な情報提供が必要であることを強く感じた。
日本ではこれまで主に補助幹線道路など比較的中上位の階層の道路においてRABの導入が進みつつあるが、生活道路や細街路上のデバイスとしてのRAB適用が課題であることも、データベース整備や意見交換を通じて浮き彫りとなった。その推進のためには、我が国の適用環境に応じた、省コスト型の小型構造の検討や、自転車・歩行者等の様々な道路利用者に対応した機能と構造が必要であると考えられる。