research study
交通事故とミスマッチ
背景と目的
ほとんどの交通事故は当事者の予測ミス、思い違い、判断ミスといった要因によって生じていることはよく知られている事実である。これまでの研究調査でも、たとえば交差点における事故の場合、当事者同士の意思の疎通が十分でなかったり、一方の当事者が交通ルールを守らなかったために当然守られると予測していたもう一方の当事者との間で予測のズレが生じた結果起こったものがかなり多いことが指摘されている。また、善意で行われた行為が結果的に不幸を招くいわゆるサンキュー事故、信号や標識あるいはルールそのものの読み違いを原因とする事故も多い。
こうしたことを考えて行くと、事故の背後にはさまざまな「ミスマッチ」が存在していることが明白である。ところが逆に、実は「ミスマッチ」には実に多様な内容と、多様な場面が存在しているのに、それが単に「ミスマッチ」として安易に片付けられてしまっている、という側面もある。そうしたことから、ミスマッチを多様な局面から洗い出し、パターン化して、それが事故とどう結びついているかをみることによって事故原因が究明され、事故削減のための方策が考えられるのではないか、というのが本プロジェクトがスタートした時のそもそもの意図であった。
したがって、研究活動はまず第1段階として、事故はどのようなミスマッチのもとで起こっているのかを洗い出す(仮説の設定)ことからスタートし、次に第2段階としてそうしたミスマッチが実際に存在しているのかどうか、そしてそれが本当に事故と結びついているのかどうかを調べ(仮説の実証)、さらに第3段階としてそうした研究の成果を実際の事故削減に結びつけるにはどうしたらよいのかを検討して(研究の応用)いこうとしたものである。そうした意図でプロジェクトはスタートしたのであるが、しかし、次節以下で述べるように、ミスマッチの局面を洗い出し、ミスマッチをパターン化するなかで、そもそもミスマッチとは一体何か、すなわちその概念をめぐって議論が続出することになった。つまり、ミスマッチの概念をめぐって、メンバーの間にもある種の「ミスマッチ」があることが明らかになったわけである。
そうしたことから、研究活動の前半はミスマッチの概念規定とそれに基づく事故ケースの洗い出し、そして洗い出されたケースを整理するなかから、ミスマッチのパターン化を行うことに費やされた。そして後半は、ミスマッチをとりあえず「挙動のズレ」と規定した上で、そうしたミスマッチのなかから、交差点およびその付近で生ずるミスマッチの典型的なケースを選び出し、それを担当したメンバーが、①どのようなミスマッチ(挙動のズレ)が起こり得るか、②その背後にある要因(原因)は何か、③それに対する対策、改善策としてどんなことが考えられるかを検討する質的研究(ケーススタディ)を一方で行った。そして他方では、実際にそうしたミスマッチが存在するかどうかを量的に把握するために、実際の行動・意識・解釈などをめぐってアンケート調査(最的研究)を実施した。