research study
超安全自動車のソーシャル・バリューに関する研究
背景と目的
本研究において我々に与えられている基本的な課題とは、超安全自動車におけるソーシャル・バリューとは何か、あるいはそれをどのようにとらえるかということであった。ひとまず、自動車の利用者が自己の生命や肉体の損害から護られることを「安全」と考えるならば、人々はその安全を購入するために必要な何らかの支払いを行う、という行動を一つの分析対象としてとらえることが可能である。そして人々はその支払いが少なければ少ないほどそれを良しとする。すなわち、社会を構成する人々は安全に対して何らかの支払い意思を持ち、資源を安全の実現のために用いることによって、安全を確保しようとする。この支払いは、安全の対価としてのコストに他ならない。このように考えると、ソーシャル・バリューという概念を考えるときの一つの有力な手掛かりは、安全とコストの関係を明確に描きだすことにあるといえるであろう。
我々がこれまで第2章と第3章で行ってきた分析は基本的にはこのような安全とコストとの関係、さらに言えば安全に対して社会がどれほどの費用を負担する用意があるかを明らかにしたいがための一連の手続きであったと言うことができる。第2章においては特に技術的な側面に注目して、自動車の安全性に対する考え方がどのように変遷し、そして技術的な安全対策の工夫がどのようになされ、それがどれほどの資源を投入することによって可能であるかを明確にしようと試みた。すなわち、そこにおいては、安全を実現するための技術とそのコストとの対応関係を明確にすることが目的とされた。また、第3章においては、安全を代表させる数値として交通事故死亡者数や傷害者数の変化を取り上げ、それらを計量的に分析することによって、安全を規定する基本的な要因を究明しようとした。もし仮に安全を決定する要因を明確にできたとすれば、その要因を強化あるいは軽減できるような技術の開発によって安全な自動車を実現することが可能になるはずであり、そして究極的には、安全を確保する要因の全てを完全に備えた超安全自動車を実現することが理論的に可能になるはずである。言い換えれば、第3章では安全とそれを実現する技術との対応関係を明確にすることが目的とされたのであった。