research study
交通安全文化の認識と醸成に関する国際比較研究
背景と目的
現代社会は、目覚ましい経済発展とモータリゼーションの進展に伴って、交通機関による空間移動を生活の基幹においた多機能で多層な生活空間が形成されたモビリティ社会である。いまや、交通機関による空間移動は、経済活動や日常生活行動において、衣食住と同様なレベルの生活様式決定因子として位置づけられていると言っても過言ではない。現代人は、移動のために生活時間の多くを費やしている現実がある。特に、地球規模で認知され活用されている自動車は、身体の一部のような存在となっており、生活の利便性・機能性を高めている。しかし、一方では生活空間に溢れ出た自動車の存在が、我々の生命や財産を脅かす危険性と生活時間のロスを発生させている。
現在、地球規模での環境文化創造型社会の確立が叫ばれ、自然と共生する持続可能な地域システムを持つ地域社会の構築が必要とされている。この期において、我々はより安全・安心な交通環境のもとで、快適なモビリティ社会を確立する必要がある。つまり、交通を文化の一部として認識し、人間と人間を取り巻く環境を包括した概念の中での存在として位置づける必要がある。しかしながら、交通に関する認識は、必ずしも地球規模での共通性があるとは言えない。特に、交通安全に関しては、交通の発展段階によってレベル差が存在している。さらにそれぞれの国の持つ民族性・歴史性・政治風土・モラル・自然環境などによって相異がある。特に、交通モラルは、交通に関する文化の成熟度と密接な関係があり、交通安全教育の普及と効果も同様な関係がある。
そこで、快適なモビリティ社会を確立するために、交通のリスクを生じさせる遠因となっていると考えられる「交通安全文化」(Traffic Safety Culture)に焦点を当て、日本と世界の国々と比較分析を実施し、交通安全を文化として如何に認識しているのか、さらに文化としてどのように醸成されているのかについて明らかにし、求めるべき交通安全文化の姿を描き出そうとするものである。
期待される成果
研究期間:3年間(2008-10年度) 研究対象地域:交通先進地域;交通の発祥地のヨーロッパ(イギリス・ドイツ・ポルトガル)、モータリゼーション形成地のアメリカ、急激なモータリゼーション展開地の日本/交通発展地域;高度経済発展進展地のアジア(タイ・中国)、ブラジル
初年度;交通安全文化の基本調査:「安全に対する価値観の違い」「危険の認識度の違い」分析の基
礎データ収集。交通機関の歴史的位置づけ、経済社会状況と自動車普及、自動車所有と事故の関係、交通モラルと自動車に対する認識(既存調査結果収集)などを研究対象地域ごとに収集。A基本的データ・資料の収集;4月~9月/Bデータ解析・GIS分析交通・環境の経済評価解析;10月~1月
2年度;交通発展段階における交通安全文化の比較分析:研究対象地域の国ごとにフィールドワー
ク対象都市を決定し、生活様式と交通機関発達関係、走行における危険認識、歩行と走行におけ
る交通安全教育、交通リスクに関する認識などに関する調査データを現地調査により収集。交通先進地域と交通発展地域別現地調査;6月~9月/12月~2月(4月~8月;日本の交通安全文化の解析)
3年度;求めるべき交通安全文化の姿提示:交通発展段階における交通安全文化の相異を地域比較分析的に評価し報告する。求めるべき交通安全文化の醸成のあり方を探り、交通安全(教育)における文化の視点の重要性を論証する。