研究調査

research study

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実現可能なエコシティへの道

プロジェクトリーダー:片倉 正彦
年度:1998年, プロジェクトナンバー:H048

背景と目的

近年、欧米を中心としたいわゆる先進工業国において、都市交通の担い手としての自転車が注目されている。
自動車の機動性が都市交通の渋滞問題と駐車問題によって阻まれ、自動車と都市との対立が鮮明になればなるほど、都市における短距離交通手段としての自転車の機動性と利便性が見直されている。特にヨーロッパの都市中心部では、商業地区への自動車の乗り入れを規制し、公共交通機関や自転車によって安心して通行できる「交通セルシステム」や「トランジットモール」等が作られ、快適な環境空間が形成されている。
また、地球的規模で解決を迫られている炭酸ガスの削減と希少となった化石燃料に対応するためにも、自動車利用の抑制が多くの国で重要な課題として認識されつつある。したがって、単に工業先進国のみならず、今後さらに都市への人口集中化が予測される諸国において、都市交通を自動車という交通手段に専ら依存するならば、以上のような問題がさらに深刻化することは明らかである。
このように自転車が欧米において注目されつつあるのは、単に短距離交通手段としての利便性、交通渋滞に対する一時的対策手法として着眼されているのではない。都市集中化の進行において十分に機能しなくなった都市交通に対して、大気汚染と渋滞を回避しながら、いかに機動性と利便性を回復させるか、交通システムの改善を求められているといっても過言ではないだろう。そして、そのような交通システムの必要不可欠の要素として自転車が見直されているのである。
ところで、わが国においては、自転車問題の中核は1970年代から深刻化した放置自転車対策として論じられることが多かった。1980年代になって、放置自転車に対する対策は、いわゆる自転車法の整備という法制度上の基盤を持つに至った。また、歩行者交通の安全と優先が求められ、コミュニティ道路や歩行者天国など歩行者優先対策も実施されてきた。
しかし、これらの施策は断片的、一時的なものが多く、必ずしも広域的な範囲で快適な生活空間を実現しているとは言えない状況である。その要因の一端は「自転車を都市交通システムの中にどのように位置付けていくのか」11)、いかにして「生活と交通の質を高めていくのか」( 2) といった政策的な論議がまだ充分ではないからではないだろうか。よく言われるように、わが国においては、大部分の道路で歩行者と混在した交通運用となっており、歩行者ばかりでなく、自転車にとっても安全快適な道路空間ではなく、自転車利用を増加させる環境が形成されていない。また、1990年代になって、環境庁が中心となって環境負荷の軽減や「自然との共生及びアメニティの創出を図った都市環境計画」(3)の実現を固り、ェコシティ(環境共生都市)を整備する必要性が叫ばれるようになったが、国や自治体の施策としても環境や省エネルギーの観点から自転車利用の促進を図る具体的な交通政策はほとんど有していない状況である。
本研究は、わが国の都市においてなぜヨーロッパの都市に見られるような優れた歩行者専用地区が実現されないのかという観点から、歩行者・自転車にとって安全、快適な交通環境を実現するための障害は何であるか、それを解決する手がかりとプロセスはいかにしたらよいかを明らかにすることを目的としている。

期待される成果

本調査研究では、以下に示した各項目のように、現状の自転車に関する政策と自転車利用の問題点と安全性、自転車利用者の意識を分析するとともに、実際の都市地区を対象に交通環境改善対策作成のケーススタディを実施することにより、歩行者、自転車交通に対する環境改善のための具体的な交通施設の手がかりを探ることとした。
1。資料調査:各国の自転車に対する交通政策平成10年度調査研究「歩行者自転車優先地区の計画」において、オランダ、イギリス、ドイツ、アメリカの諸国の自転車政策を比較検討したが、交通政策において大きな変化が見られる項目についてまとめた。
2。意識調査:自治体担当者の意識全国500の自治体に対してアンケート調査表を配布・回収し、自動車・自転車の利用状況、各自治体における自転車問題対策実態、現状の問題点などについて調査を行った。
3。判例の検討:自転車と法制度平成10年度調査研究「歩行者自転車優先地区の計画」において自転車加害事故の判例を収集整理した。今年度はこれらをもとに自転車の法制度上の位置づけについて考察を加えた。
4。聴き取り・質問紙調査:交通環境改善計画のフィージビリティスタディ武蔵野市の吉祥寺駅前商業地区及び沼津市を対象として、自転車交通の交通管理方策に関するフィージビリティスタディを実施した。本報告書に掲載するのは、このうち吉祥寺駅前商店街の事例である。上記l~4の検討内容をもとに、自転車利用空間と管理制度の再構築の具体的な計画案を策定し、吉祥寺駅周辺交通問題協議会メンバー、地域住民を対象に改善計画案提示・説明を行い、計画案に対する意見を聴取・質問紙回収することにより、自転車にとって安全・快適な交通の実現の障壁となっている問題は何かを調査した。

成果物

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