research study
二輪車交通教育の実践モデル研究
背景と目的
高校における二輪車交通教育の現実は、いわゆる「三ナイ」運動のように二輪車の利用を制限することによって交通事故を抑制しようとすることが多い。確かに抑制することによって一時的に事故数の減った場合もあり、一時的な抑制策としては「三ナイ」運動も大いに評価される。しかし、長期的展望に立った場合、社会人としての必要な能力を養うという高校教育の本来の目的から見るならば、「三ナイ」運動は積極的な交通安全教育とは言えないのではないか、という論議も一方にはある。「危険から遠ざけることによる安全確保」もそれなりの意味はある。しかし、我々は交通社会の中で生きている以上、危険から完全に隔離されることはできないのであるから、「危険から遠ざけること」は根本的な解決とはならない。それどころか、「危険から遠ざけることによって安全が確保される」という考え自体に危険性がひそんでいることも見逃せない。むしろ危険から遠ざけるよりも、積極的に危険という現実の問題と取り組み、危険とは何か、どうすれば安全を確保できるかを、運転者自らが納得し実践できるような交通安全教育が必要である。
若年者の事故を分析してみると、危険に対する無知と運転に対する過信に起因するものが大部分である。危険の予測と冷静な判断、自制心を身に付け、自分の能力の限界を自覚することが安全運転の要件である。これらのことを学んで身につけるためには、従来のような交通安全講話や映画などの視聴覚教材だけではどうしても不充分である。二輪車の運転や運動特性は自転車の乗り方の練習のように、言葉では表現しきれないことが多く、どうしても自分で体験してみて身体でおぼえる以外に方法はない。ここに二輪車を実際に使った交通教育が必要とされる積極的理由がある。また、それは単にテクニックを磨くことだけを目的としているものではない。走行の基本である「走る」「曲がる」「止まる」の実技練習を通し、団体行動における規律の重要性、他人に対する思いやり、安全に対する意識の高揚など、意識の変革をも目的としているものである。このような目的にそって二輪車を使った交通安全教育カリキュラムの原型(プロトタイプ)を作り、それを教育実践として試行することが今回の目的であり意義とするところである。