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第45回 令和5年度(2023年)

著作表題

フランスのウォーカブルシティ:歩きたくなる都市のデザイン

受賞者

ヴァンソン 藤井 由実

受賞理由

本著作は、2010~2022年の約10年間に、フランスの人口10万人以上の多くの都市において、ウォーカブルな都市づくりが実践されてきた様子を詳しく紹介する書籍です。パリをはじめとするフランス各都市のウォーカブルな都市づくりの事例紹介を通じて、中心市街地の自動車交通の抑制、道路空間の歩行者等への再配分、公共交通の充実を軸として行われた都市空間の再編とモビリティの再編を大胆に進める方法論をその政治的・社会的・財政的・歴史的な背景とともに分かりやすく広く伝えています。
気候変動、コロナ禍、DX革命、戦争とエネルギー危機、移民受け入れ、高齢化などの多くの課題を社会に抱えているにもかかわらず、フランスの自治体では最大数の市民にとっての住みやすいまちの姿を追求してきました。そして、フランス各都市の歩いて楽しい都市づくりの実践を可能にした法制度、人材・組織体制、ステークホルダーとの合意形成といったしくみを明らかにしています。具体的には、(1)パリの15分都市構想(住民の多数が徒歩や自転車で基本的な日常生活を送れる)、(2)各地の歩きたくなる都市を実現できる背景、(3)新しい時代の移動の哲学を示すモビリティ基本法、(4)ディジョン市のMaaSを活用したスマートシティ、(5)都市政策の実行体制、(6)ナント市のマスターアーバニストの役割、(7)アンジェ市の歩行者専用広場整備をめぐる多様なステークホルダーの合意形成、(8)あらゆる交通手段が共存・共有する道路空間を生活空間として認識する「穏やかになった街」の概念という構成で、多面的に整理・記述しています。
本書の内容は、15分都市構想やウォーカブルシティが世界的な関心を集めているこのタイミングに適しています。また、豊富な具体例に関する写真と図解によって分かりやすく、統計に基づくグラフと出典の記載によって説得力を持つ形で示されており、研究者、行政担当者、市民のいずれにも示唆に富む知見を与えています。特に、実装の鍵となる自治体、政治家、行政、プロジェクト体制、財源、人材の多様性と社会の連帯といった特徴をインタビュー等に基づいて明らかにすることで、歩行者空間や交通環境の整備といった技術論だけでなく、どのような都市を作るのかといったビジョンや何のためにウォーカブルを推進するのかといった目的を事業推進者と市民が共有することが大切であることを指摘しています。これにより、歴史的・社会的な背景が異なる日本の現場でも採用できそうな工夫を多面的に考えるきっかけを与えてくれます。
以上により、本著作を国際交通安全学会賞著作部門の対象として相応しいと判断いたしました。

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