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第37回 平成27年度(2015年)

著作1

表題

交通インフラ経営のグローバル競争戦略-国際競争力強化に向けた国家戦略の視座

受賞者

中野 宏幸

受賞理由

 本書は、社会の重要な基盤である交通インフラを1つのビジネスという観点からとらえ直しています。具体的には、プロジェクト・マネジメント、PPP、グローバル競争などのキーワードから交通インフラを俯瞰し、多様なビジネスモデルを展開しつつある各国がさまざまな戦略を駆使していることを指摘した後、わが国の今後の方向性にまで言及しています。
 本書の1つの大きな特徴は、各国のその豊富な事例にあります。発展途上国交通インフラまでも含めた多くの事例は、読者に対してグローバルな視点を提供してくれます。さらに参考資料の提示や用語説明など、読者の理解を助ける工夫がなされています。
本書の全体にわたって、分析対象と問題意識は明確であり、経営学的アプローチによって網羅的に整理している点は評価されます。とかく内向き志向に偏りがちだったわが国にとって、海外への交通インフラ輸出が大きな課題になりつつある中で、交通インフラ経営を国際的ビジネスとしてとらえ、戦略的経営のダイナミズムを論じたことはわが国への示唆に富んでいるといえます。さらに、昨今のインドネシア高速鉄道受注競争の顛末や愛知県での道路コンセッションの動きなど、インフラ経営の問題は国内外でのホットトピックとなっています。この問題は今後もますます重要になっていく一方で、国内での専門知識の集積は未だ十分とはいえず、本書のような著作が待たれていたといえます。
 鉄道、港湾、空港、道路、の各交通インフラにかかわる知見を、 民間出向を含む豊富な経験に基づく議論の展開で、重みある知見の集大成であり、読者に対して交通インフラをビジネスモデルとしてとらえるという視点を提供しているという点、そしてクローバル競争における交通インフラの重要性を指摘している点などは大いに評価されます。

著作2

表題

サインシステム計画学-公共空間と記号の体系

受賞者

赤瀬 達三

受賞理由

 鉄道駅や空港、道路などの交通施設をはじめとする各種の公共空間においては、利用者に対して目的施設への進路や利用ルールなどについてわかりやすく情報提供を行うことで、的確に案内誘導をすることが不可欠となっています。しかしながら、情報提供すべき内容が多様であったり、空間の構造が複雑であったり、また案内を必要とする利用者が国際化、多様化する中で、情報過多とならず必要な情報を誰にでもわかりやすく的確に伝達することは、容易なことではありません。また、案内表示デザインの成否は、その施設の気品や、利用者の居心地にも大きな影響を与えることになります。
 本書は、このような公共空間における案内表示を記号と文字で表現し、これらを統一したデザインの下で組み立て、配置する表示設備であるサインシステムの計画論を、著者が40年以上にわたり携わってきた数多くの代表的なサインシステムプロジェクトでの経験・知見を織り込みながら、体系的にまとめ上げた力作です。本書は、前半の歴史編と後半の理論編から構成されています。 前半の歴史編では、日本におけるサインシステムの概念の黎明期におけるプロジェクトとして位置づけられる東京オリンピックや大阪万博などのサイン計画に始まり、様々な試行錯誤の時代を経て、コモンサインの考え方や2001年のバリアフリーガイドライン策定に至るまでの経緯を、豊富な資料を丹念に引用しながら解説しています。
 また、後半の理論編では、サインシステムの最も基本となるものはコミュニケーションの原理であるとし、適切なコミュニケーションを図るために必要なサインの要件、サインシステムの果たす機能、効果的なサインシステムを得るために不可欠な計画プロセス、さらには分かりやすくて魅力的なサインのための表現原則などについて、それぞれ意味論、記号論、計画設計論、およびマネジメント論として理論構築を試み、随所において実例を引用しながら分かりやすく論じています。
 都市における公共空間の機能や魅力を大きく左右することにつながるサインシステムの計画論を、その歴史、理論の両面を押さえながら体系化した本書は、これまでに類を見ないものです。豊富な写真や図解を用いた明快な解説は、今後のサインシステムの理論的理解とそれに伴う魅力的都市空間の創造に大きく寄与するものと考えられ、その業績は高く評価されるものです。

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