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第45回 令和5年度(2023年)

業績題目

住民との対話がはぐくむ新たな公共交通のかたち
~芳賀・宇都宮LRTがもたらす人とまちの未来図~

受賞者

宇都宮市 芳賀町 宇都宮ライトレール株式会社

宇都宮ライトレール1

受賞理由

2023年8月26日に開業を迎えた芳賀・宇都宮LRT(愛称:ライトライン)は、全線新設の次世代型路面電車システム(LRT)としては日本国内初となる路線です。
初期構想は、1993年に宇都宮市街地開発組合において当時の栃木県知事が渋滞対策として、新交通システム導入の必要性に言及したことが発端となっています。
具体的な計画がはじまるのは2003年に栃木県や宇都宮市、有識者らでつくる委員会において、渋滞対策だけでなく将来の高齢化、環境負荷そして事業費を考慮して、LRTが最適という報告がされたことがきっかけになっています。導入への取り組みは自動車中心の生活という地域特性があるため、宇都宮市内でのLRTの周知の取り組みから進められました。当時はLRTの国内知名度が皆無だったため、周知パンフレットを市内全戸に配付したり、市民に対してこれまで1000回を超える説明会を開催し、市の財政状況からLRTの意義まで丁寧に説明することにより理解促進が進められてきました。その間、国土交通省の運輸審議会の公聴会などの賛否意見のやりとりを経て、2016年に国土交通省の審議会において、地域公共交通の活性化及び再生を適切かつ確実に推進するために適当なものであることが認定され、2018年に着工されました。住民の懸念した財政問題に関しては、公設型上下分離方式を採用することで、宇都宮市・芳賀町が軌道施設や車両の維持管理に責任を持ち、宇都宮ライトレール(株)が運行サービスを提供する方式で対応しています。運行会社は整備の初期投資がかからず、需要定着により開業から短期間での黒字が見込まれています。
路線コンセプトの特徴に、中核都市として持続的な発展を目指す「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成が挙げられています。これは住まい、医療、福祉、商業など生活に必要な施設や、産業・観光を集約した拠点をつくり、それらをLRTやバスなどの利便性の高い公共交通の連携で階層性のあるネットワークで実現する骨格になっています。このネットワークの東西移動の基幹を担うLRTの主要停留場にトランジットセンターを配して、各交通モード間の乗り換えの利便性を高めています。ライトラインの停留場付近には、自転車や乗用車のパークアンドライドなども配置され、地域連携ICカードの導入と公共交通の乗り継ぎ割引も導入することにより、通勤・通学のLRT利用の需要を喚起して路面軌道設置による車線減による影響を最小限にしています。いままでに路面電車が身近でなかった地域への新設路線ということで、走行空間に応じた軌道構造を採用してライトラインの軌道側を立体交差させることや、信号システムを工夫して自動車の右折時の事故低減を図るなど、従来の道路交通の安全性も配慮されています。

宇都宮ライトレール2

また、家庭ゴミの焼却や家庭用太陽光により発電された地域由来の再生可能エネルギー100%で走行することができるゼロカーボントランスポートを実現するとともに、電気バスや地域内交通のEV化も同時に図ることで地域公共交通の脱炭素化を目指しているのも特徴です。
加えてライトラインの車両の各扉で交通系ICカードを利用したセルフ乗降方式を採用することによりスムーズな乗降を実現し、定時ダイヤ運行の実現への工夫が図られています。このICカードの利用促進には、小学・中学・高校生相当世代への配付や乗り方教室の実施などで住民への定着を進めるなど理解促進活動が続けられています。
また、将来にわたり地域密着で支えられていく公共交通となるように、車両デザイン・内装についても地域風土・季候を象徴した「雷」が統一デザインとして採用されています。また、愛称の選定、停留場名称の選定、各停留場の壁面個性化デザインの選定への地域住民の参加、ネーミングライツやドネーションの募集など地域企業の参画が積極的に行われています。
車両内や停留場内のFree Wi-Fi、停留場でのデジタルサイネージなどデジタルインフラの強化により、沿線のデジタルネイティブ世代の大学生や観光客などの来訪者の回遊促進なども視野に入れている点も工夫として挙げられます。
以上のように、ライトラインは、いままで路面電車になじみがなかった地域において、今後、人口が減少するなかでの地方都市の新たな公共交通のかたちを、住民との対話と協働を交えて開業を実現しました。今後、同様の問題を抱える日本国内の地方都市に広く活用できる先行事例となった点を、よりよい交通社会の実現に寄与するものとして高く評価いたしました。

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