award
第43回 令和3年度(2021年)
業績題目
みんなでゆっくり斜面を移動「スロープカー」の魅力
受賞者
株式会社 嘉穂製作所
受賞理由
スロープカーは、株式会社嘉穂製作所が開発・製作している跨座式の斜面走行モノレールです。勾配が変化しても客室の床面の水平を保つことができるため、地形に沿った自由度の高い設置が可能であることと、プラットフォームと車両との間隔が狭いため、車いすやベビーカーでの乗り降りが容易である点が特徴です。傾斜地に立地する個人宅や宿泊施設、寺院等への小人数乗りの設備の導入が中心でしたが、最近は公園等に40人乗りの車両が導入されるようになり、バリアフリーな移動手段として、興味深い発展を示しています。
特に、2020年に開業した長崎稲佐山スロープカーは、40人乗り2両の車両が稲佐山中腹の駐車場から山頂までの520メートルを約8分で結ぶ大規模なもので、その洗練されたデザインと車窓からの長崎の絶景の組合せが一つの観光の目玉になっています。車両のデザインは、フェラーリなどを手掛けた工業デザイナー奥山清行氏が率いるKEN OKUYAMA DESIGNによるものです。外装は、自然との調和を重視して黒を基調として、木々が映り込むように鏡面塗装が施されています。内装は、板張りの床に加えて森をイメージした樹木形の支柱が設置されています。麓から稲佐山への既存のロープウェイの混雑がひどくなっていたこともあり、魅力的なルートの一つとなることが期待されます。
スロープカーは、モノレール等の軌道とは異なるニッチな移動技術です。建物から離れた屋外に設置されるため建築確認が不要であり、輸送能力、速度、延長が非常に小さいことから高頻度な定期点検は不要です。また、運転士が不要で、ボタン一つで走行することが可能です。このため、設置や運行にかかる時間や費用を抑えることができます。一方で、設計時のリスク分析や出荷時の検査、引き渡し後の定期メンテナンスといった安全対策に製作所が自主的に取り組み、無事故を続けています。近年、速度は歩行速度並みであるものの、比較的に大人数が乗ることのできる車両として発展・普及することで、斜面の移動の可能性を広げたものといえます。
スロープカーをはじめとする斜面を走行するモノレールやエレベータのような移動技術は、わが国に多く存在する斜面地において今後も広く発展・普及することが期待されます。そのため、理想的な交通安全の実現に資する啓発に多大な業績をあげたものとして学会賞の業績部門に推薦します。