award
第47回 令和7年度(2025年)
論文1
論文表題
ライドシェアをめぐる法制度の現状と今後の課題
受賞者
谷口 博文
受賞理由
本稿は、IATSS Review 2024年10月号「タクシー・ライドシェア」の特集号に掲載された論文です。2023年10月の岸田内閣における所信表明演説をきっかけとして、ライドシェア導入に関する検討が政策の現場で本格化しました。ライドシェアに関する議論が様々に動く中、本論文は、法的側面からライドシェア制度の問題を整理したものです。
論旨として、ライドシェアを定義するところから議論を始めています。日本における「ライドシェア」をUberやLyftに代表されるような諸外国の「ライドシェアビジネス」とは異なるものとして位置づけています。ライドシェアの法的な記載については、道路運送法(以下「法」とする)の第78条第2号の例外規定により、旅客自動車運送事業には含まれず、二種免許も求められないそれにあたるものだとし、この規定の導入、さらに対象の拡大などの変遷を整理しています。
最近の動きとして、法第78条第2号に関連して、2023年12月にこれまでの地域的な空白に加えて時間帯による交通空白の概念の導入が図られたこと、そして法第78条第3号に関連する新たな措置として、2024年3月に自家用車活用事業が提示されたことで、都市部においてもライドシェアへの道が開かれたことが示されています。とくに、法第78条第3号に関しては、物流・自動車局長通達の解釈として、この措置はタクシー事業の規制緩和と言えるものの、ライドシェアビジネスを旅客運送事業の一つと認めているわけではないと指摘しています。
ライドシェアとライドシェアビジネスの違いを明確にするために、サンフランシスコとロンドンでの事例が紹介されています。プラットフォームビジネスとしてのモデルを示し、とくにプラットフォーム事業者に対する安全面等の対応義務に関する規定が徐々に整ってきたプロセスが示されています。また、日本のライドシェアに関する政策課題については、都市部・観光地におけるタクシー不足の問題と、タクシー事業の経営が困難な地域への対応に関して、それぞれに解決策が整理されています。
さらに、日本においても「タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置づける法律制度について議論する」とされていることから、ライドシェアビジネスにおける安全にかかわる責任の所在やドライバーの就業形態に関する論点を提示し、ビジネスモデルの形成と規制のあり方、地方部における財政支援の必要性などについても言及しています。
本稿は、法律を学び、大蔵省・財務省での勤務経験を経て、大学での公共政策の教鞭経験をもつ筆者による日本版ライドシェア制度の議論です。法における同制度の位置づけ、関連する通達の解釈、さらには現在のライドシェアからライドシェアビジネスへの発展の可能性まで包括的に議論されており、当該分野を理解するために大変有用な知見を提供しています。法律の観点から、当該分野における早い段階での議論を取りまとめた優れた論文であると高く評価いたしました。
論文2
論文表題
Analysis of land-use and POIs contributing to traffic accidents around intersections
受賞者
中尾 聡史,澤田 昂志,Andreas Keler, Jan-Dirk Schmöcker
受賞理由
本研究は、交通事故の中でも特に発生頻度および社会的影響の大きい交差点事故に着目し、その発生要因を土地利用および周辺施設環境の観点から実証的に分析した、意欲的かつ先進的な研究です。
本研究で着目した交差点事故は都市交通安全における最重要課題の一つであり、人的被害のみならず社会的損失が大きいにもかかわらず、その発生メカニズムには未解明な点が多く残されています。
従来の交通工学分野では、交通量や信号制御、道路構造といった交通運用・施設条件に主眼が置かれてきましたが、本研究ではこの課題に対し都市空間の利用実態と交通安全との関係に踏み込んでおり、研究領域の拡張に大きく寄与するものです。
特に評価すべき点は、従来見過ごされがちだった中小規模交差点の事故要因に着目し、土地利用とPOI:Points Of Interest(公園、レストラン、スーパー、コンビニエンスストア等の周辺施設)を体系的に分析の枠組みに取り入れた点にあります。
重大事故が比較的少ない中小交差点は研究対象になりにくい傾向がありますが、実際には日常生活圏における事故の多くが発生しており、本研究ではこの現実に即した問題設定を行っている点で社会的意義が高いと評価できます。
さらに京都市内の交差点を網羅的に対象とし、OpenStreetMap データを活用して周辺POI および土地利用情報を体系的に整理・定量化したことで、交差点周辺環境が事故リスクに与える影響を客観的かつ再現可能な形で示しており、方法論的にも高い独創性と発展性を有しているといえます。
データ収集から変数設計、統計分析に至るまで一貫した方法論が採用されており、再現性および発展性が高い研究基盤を構築していることより、今後、他都市への適用や時系列分析への展開など、多様な汎用性を有している点についても期待されます。
加えて、本研究の解析結果は単なる統計的関連の提示に留まらず、交通まちづくり等の実務的政策立案へ直結する示唆を豊富に含んでおり、例えば、公園が近接する交差点で事故発生率が低い一方で、飲食店や小売店舗が集中する交差点で事故率が高まる傾向を示した点は、土地利用と交通安全の関係を具体的に示す重要な知見といえます。
これは視認性や歩行者、車両行動の変化といった行動特性の変化を通じて事故リスクが形成される可能性を示唆しており、安全対策設計やゾーンマネジメントに新たな視点を提供するものとして高く評価できます。
以上の理由から、本研究は学術的独創性、方法論的厳密性、ならびに社会的・政策的インパクトにおいて優れた成果を提示していると評価し、国際交通安全学会賞論文部門に相応しいと判断いたしました。