award
第43回 令和3年度(2021年)
論文1
表題
Attitude toward physical activity as a determinant of bus use intention: A case study in Asuke, Japan
受賞者
Yen Tran, Toshiyuki Yamamoto, Hitomi Sato, Tomio Miwa, Takayuki Morikawa
受賞理由
バス利用促進は、地域モビリティの活性化や地域公共交通事業の活性化のみならず、それを通した地域経済・地域社会の活性化や地球温暖化対策、そして、地域住民の高齢者福祉対策や健康増進対策として重要な公共政策の一つに位置づけられています。ついてはこれまで様々な方法で、バス利用促進対策が検討され、進められてきましたが、この研究論文は、そうしたバス利用促進において重要な新しい知見を提供する秀逸な研究論文であると高く評価され、論文賞候補として推薦されたものです。
これまで最も典型的なバス利用促進対策は、客観的なバスサービス水準の向上でありましたが、近年ではそうした基本的対策に加えて、様々なソフト対策の必要性が認識され、各種プロモーションや情報提供等を軸とした心理学的な方略としてのマーケティングの活用が実践されるようになってきています。そうした取り組みはモビリティ・マネジメントという呼称で幅広く研究とその実践が進められてきていますが、そうした取り組みの中で、「健康」に着目したものがその重要性に比して殆ど進められてこなかったのが実情でした。
そんな中でこの研究は、身体活動に対する態度が肯定的であればあるほど、すなわち、外出や歩行などの身体活動の健康増進効果を肯定的に捉える傾向が強ければ強い程、バス利用傾向が強くなるという因果プロセスの存在を理論実証的に明らかにしています。この事は、国民の健康意識の増進がバス利用促進という意図せざる帰結を導き得る可能性を示すものであると同時に、バス利用が自動車よりも身体運動量が多く「健康に良い」というメッセージを含んだプロモーションがより効果的にバス利用を促進せしめる可能性を示唆するものであります。さらに、心理学におけるスタンダードな行動モデルである予定行動理論を援用することで、外出や歩行などの健康増進効果は重要だと考えれば考える程、バス利用を肯定的に感ずる様になり、バスを利用することは困難な行為で無くむしろ容易な行為だと考える様になり、そして、自分自身の身の回りの人々も自身のバス利用を肯定的に捉えるだろうと信ずる様になること、そして、そう信ずる様になることが原因でバス利用が更に増進される可能性を同じく理論実証的に明らかにしています。こうした知見は、健康をキーワードとしたバス利用促進対策を図る上で基調な基礎的知見となり得るものです。
そして最後に、こうした活動に対する態度のバス利用促進効果は、若い人々、自動車利用者、そして、バス停の近くに住んでいる人々においてより顕著であることを多母集団同時検定を通して明らかにしております。これは、上述の様なメッセージ供与の取り組みを考える際に、より効果的なターゲットを想定する上で貴重な基礎的知見となり得るものです。
このように、本研究は、近年の地域交通政策を考える上で近年強く重視されているバス利用促進対策に、健康意識という新しい切り口で取り組んだものであり、高い水準の実証分析を行い、かつ、実践的に価値のある多数の知見の抽出に成功していることから、国際交通安全学会の論文賞候補としてふさわしいものと確信し、ここに推薦いたす次第であります。
論文2
表題
Normal and risky driving patterns identification in clear and rainy weather on freeway segments using vehicle kinematics trajectories and time series cluster analysis
受賞者
Elhashemi M. Ali, Mohamed M. Ahmed, Guangchuan Yang
受賞理由
近年の「CASE」というキーワードに代表されるように、高度運転支援システムの普及やSAE自動運転化レベル3の市販車の登場にあわせて、コネクテッド技術による高度地図情報の参照や双方向データ通信など、混合交通環境においてリアルタイムデータの活用と効率的な情報処理は非常に重要となっています。その際に、天候要因により運転行動が変化することを捉え、支援タイミングなどに反映することが可能となればより高い安全・安心の実現に近づけることができます。
本論文では、アメリカ運輸省における第2期戦略的高速道路研究(SHRP2)において広範囲に取得されたNDS(Naturalistic Driving Study)データのサブセットに含まれる車両運動、レーダーデータ、GPSデータ、ブレーキペダル操作、前後ビデオ映像記録など利用し、高速道路での衝突リスク発生について分析しています。ドライバーが衝突イベントを回避するために気象条件に応じてどのように異なる補償を行うかを示し、雨と晴天の両方の条件で通常の運転パターンと危険な運転パターンを区別するしきい値を提供し、走行軌跡分析が特定のイベント中の運転パターンをよりよく識別するのにどのように役立つかを示しています。ここでは、雨天時には、晴天時に比べてドライバーは速度を落とし、車線変更の頻度を下げるなどが衝突余裕時間(TTC)やヨーレート変化といった車両運動学に関連した項目を用いることによって顕著に識別されました。さらに、危険な運転パターンをより効率的に検出するために、教師なし機械学習手法であるK-meansクラスタ分析により通常運転からリスクを伴う運転条件への車両運動の移行がいつのタイミングで発生するかを晴天と雨天別に分析をしています。解析結果として、衝突リスクに暴露されている時間が、晴天時に比べて雨天時はリスク発生を中心とした前後ともに長くなる傾向と影響している時間が示されました。これらリスクを伴う運転と通常運転との違いは、速度、加減速率およびヨーレートを用いたデータ図心により明確にパターン分類することが可能である事が報告されています。
この解析は、コネクテッド車両のダイナミックデータのみで二次的なタスク情報を利用しないため、非正常な運転行動のパターン分類を速やかに実現出来ることにメリットがあり、普及が始まっているコネクテッド環境に用いることで、天候変化による危険リスクのホットスポットに対して可変速度制限の更新ができます。本論文では、K-means クラスタ分析のみでパターン分類していますが、今後、パラメータを追加して高度な時系列クラスタリングアルゴリズムを導入することで精度向上や他の運転環境への適応拡大への可能性があります。
今後、急速にコネクテッド車両が普及していくことが予想される中、社会実装を踏まえた解析手法は実用的であり、より高度な交通安全社会の実現に資する研究結果であるとして、国際交通安全学会の論文賞候補としてふさわしいものと判断し、ここに推薦いたします。