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第42回 令和2年度(2020年)

論文表題

A meta-analysis of the impacts of operating in-vehicle information systems on road safety

IATSS RESEARCH Vol.43 Issue.3 掲載

受賞者

Apostolos Ziakopoulos, Athanasios Theofilatos, Eleonora Papadimitriou, George Yannis

受賞理由

 この研究は交通安全研究において重要な交通事故現象の統計的解明に大きな貢献を果たした研究です。交通事故の削減にあたり、主要な事故原因についての基礎知見は極めて重要であります。とりわけ次世代型の新技術を導入した場合、それに伴う事故については未知な側面が多く、そうした新しい種類の事故として、交通安全研究において近年大きく注目されているのが「走行中の車載情報システム(IVIS)などの車載システムの操作」を原因とする事故であります。そうした認識から、これまでも車載システムの操作に伴う事故に着目した実証研究が進められてきました。しかしそれらはいずれも部分的なサンプル研究に過ぎず、母集団からランダム抽出された豊富なデータに基づく実証研究ではありませんでした。その結果、車載システムの操作に伴う事故がどの程度の頻度で生じているかという重要な指標が研究毎に異なっているという問題がありました。その結果、走行中の車載システムの操作に伴う交通事故対策についての基礎検討が困難となっていました。
 この研究ではこの問題と課題に着目し、「車載システムの操作に伴う交通事故」のより効果的な対策を検討することと企図し、交通安全研究においてはこれまで適応した先例がほとんど認められなかった「ランダム効果メタ分析」という方法論を用いています。そしてこれまでの交通安全研究の歴史の中で報告されてきた実証データの中で、活用可能なものを全て活用しつつ、車載システムの操作に伴う交通事故についての信頼性の高い実証的知見を得ています。この研究で活用された「ランダム効果メタ分析」という方法は、行動科学研究等においては一般的な伝統的手法であり、異なる実証研究データを同一の母集団から異なるサンプリングで抽出されたデータであるとみなしてより正確に母数の推計を行う統計技法であります。その結果、交通事故全体の1.66%が車載システムの操作が原因であると推計しています。なお、既往研究ではその割合の報告値は0.2~2.46%と、その水準を絞りきることが困難でした。仮にそれが0.2%であれば、極めて僅少でありそれを低減させるために必ずしも大規模な努力は必要ではないと判断可能ですが、1.66%なら僅少とは言えず、今後の対策が非常に重要だとの結論を導くことができます。一方、プロのドライバーの場合には、その割合が0.60%と約三分の一程度の水準にまで下落することも併せて明らかにしています。このことは、運転スキルの向上で車載システムの操作事故が軽減できる事を明らかに示しています。
 このように、本研究はこれまでの研究では明らかでなかった交通安全研究上の重要知見を、画期的とも言える新しい方法で明らかにすることに成功しています。本論文は学術的かつ実践的な意義から交通安全研究に大きな貢献を果たしていると評価いたしました。

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