award
第40回 平成30年度(2018年)
論文1
表題
認知症者の自動車運転能力評価とその課題
IATSS Review Vol.42 No.3 掲載(PDF 0.94MB)
受賞者
上村 直人
受賞理由
高齢ドライバーの認知症をめぐる諸問題について、従来の社会的対応の経緯と現状、今後の課題と将来の方向性などを、学術的な観点から包括的にまとめた論文であり、専門家や関係者だけでなく一般読者にとっても非常に有用な情報が網羅されている点を第一に高く評価します。認知症による大脳機能低下の症状、認知症疾患と交通事故発生との関連性など、文献レビューや著者自身の研究成果を通して、高齢ドライバーの認知症問題の全体像を分かりやすく総説しています。とりわけ、認知症患者を抱える家族の対応は悩ましい問題であり、この点に関して、著者は運転継続の意志のある認知症患者に家族がどのように接するべきかをサポートする心理教育を実践しています。支援マニュアルを活用するなど、この心理教育の効果を調査し分析した著者の研究活動は、実践的かつ斬新な取り組みであり、運転行動の変化や運転中断が促されるなど、学術的にも有意義な知見が報告されています。
認知症診断結果と運転上の問題との関連性については、一概に明確な関係性を見出すことが難しく、診断結果からだけでは運転継続の可否を判断することに限界があり、そのことから、著者は、「運転継続の可否は運転能力で判断すべき」と主張しており、適切な運転能力評価のための医学・工学・心理学による協働作業の必要性を説いています。また、高齢ドライバーに対するカーナビゲーション等の運転支援のあり方や自動運転の開発に関しても、同様に医学・工学・心理学の協働による問題解決を提案するなど、学際的研究を基盤とする本学会にとって、進むべき方向性を示唆するものであると考えます。
論文2
表題
Impact of vehicle speeds and changes in mean speeds on per vehicle-kilometer traffic accident rates in Japan
受賞者
谷下 雅義、Bert van Wee
受賞理由
この論文は、日本の高速道路における平均速度および速度変化と走行距離あたり交通事故発生率に関するデータを統計的に分析し、両者の関係を実証的に明らかにした興味深い研究成果をまとめたものです。
交通事故の発生率を減らすことは、現在も重要な課題です。死傷者だけでなく、医療費、車両や道路の損傷、事故渋滞等の経済的損失の削減に寄与することが期待されています。事故の発生の重要な要因の一つとして、速度に注目されています。一般に、高い速度では、ドライバーの反応が難しく、深刻な影響につながる傾向のあることが指摘されていますが、その一方で、低い速度の混雑時には、衝突確率が高くなり、車両間隔が短くなる影響もあります。このように、平均速度と走行距離あたり事故発生率の関係は単純ではないことが指摘されています。
そこで、この論文では、平均速度だけでなく5分間の速度変化にも着目し、走行距離あたりの事故発生率に与える影響について、東名高速道路のデータをもとに分析し、5分間速度変化が事故発生率に影響することを実証的に明らかにしました。その際に、二次元の加法ポワソンモデルを応用した視点が新しい点です。
この分析により、平均時速が110キロから85キロに低下するときおよび平均時速が65キロから90キロに増加するときに事故が増加すると結論づけています。また、曇天の日よりも晴天の日の方が事故率が高いことも見いだしました。これらの成果は、速度の変化が大きくなりにくいように道路の設計や最高速度の規制および誘導をきめ細かく行うこと等の工夫によって、交通事故を削減する対策の可能性の幅を広げるものと考えられます。
本研究は、実証的な分析により交通事故の起きやすい交通状況の特徴を見いだした研究として極めて優れていると考えられます。